数値として可視化することで、より愛情が深まることがあるのではないだろうか。例えば、我が子の身長を柱に刻んでいく行為は、傷で成長が可視化されることでより我が子をいとおしく思う気持ちが強まる。そして現代では、アプリやコネクテッド対応の機器を介してさまざまな数値を可視化し、製品やサービスへの愛着を促している事例もある。
志賀直哉の『小僧の神様』は、神田の秤屋(はかりや)に奉公する「小僧」と、小僧にとって「神様」となる若い貴族院議員のAが、妙な縁を育んでいく短編小説だ。1920年発表なので100年以上前の小説であるが、今読んでも面白い。この中に、センシングによって愛を育む事例が紹介されている。該当箇所を引用しよう(i)。
Aは幼稚園に通っている自分の小さい子供がだんだん大きくなって行くのを数の上で知りたい気持ちから、風呂場へ小さな体量秤を備えつける事を思いついた。
このはかりがきっかけとなってAは秤屋に出向き小僧と再開を果たすのだが、ここでAが感じた「数の上で知りたい気持ち」というのがとても興味深い。愛する幼子への関心が計測を求めている。おそらく家にはかりが届き、子どもの体重を量れるようになれば、可視化された数字がさらに我が子への愛情を深めるだろう。「柱の傷」で成長を可視化することに似ている。
少し大仰な言い方かもしれないけれど、ここでは、知覚できない変化を可視化することで愛を育んでいる。そのためにはかりが活躍したわけだが、現代に目を転ずると、「変化の可視化」を実現するための道具は劇的に増えている。スマホのアプリなりコネクテッド対応の機器なりを介して、より多様な可視化ができる。もしそれが愛を育むことにつながるのであれば、顧客との関係にもよい影響を与えるはずだ。どのような事例が相当するだろうか。
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