外交分野において「プロトコル」という単語は、国際儀礼という意味で200年以上前から使われてきた。さまざまなバックグラウンドを持つ国の代表が協調できるようにするための、作法やルールをこの単語に集約させている。こうしたプロトコルは、価値観が多様化する現代において、あらゆる領域で必要とされているのではないだろうか。

(写真/Shutterstock)
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 今まさにご覧いただいている日経クロストレンドのWebサイトは、「https://xtrend.nikkei.com/」というURLである。最初のhttpsの“p”は「プロトコル」の頭文字だ。ここでの「プロトコル」は「通信規格」の意味で使われる。要は通信を成立させるためのルールを意味する。そもそも通信とは、のろしから、手旗信号、電話、インターネットに至るまでルールの集まりでできている。あらかじめ赤旗と白旗の意味を決めなければ、通信は成立しない。

 最近、とてもびっくりしたのは、通信に関するルールを「通信プロトコル」と呼ぶようになったのは、インターネットが初めてだということだ。のろしや、音声電話の通信規格は「プロトコル」とは呼ばない。試しに、NTT東日本が公開している「電話サービスのインターフェース」を見ると、全145ページの文書の中で「プロトコル」という言葉は1つも使われていない(i)

 2004年の雑誌「日経NETWORK」における高橋健太郎氏の記事によれば、通信規格に関して「プロトコル」という用語を使うのは、インターネットの前身であるパケット通信コンピューターネットワークのARPANET(アーパネット)がその起源だという(ii)。コンピューター同士が通信するための厳格な決まりのことを、ARPANETのエンジニアが「プロトコル」と呼ぶようになった。

 日経NETWORKの記事中では、当時の日本人通信技術者が「そこの(引用者注:ARPANETの)開発者は、プロトコルという言葉を日常的に使っていました」「外国のエンジニアは『プロトコル、プロトコル』って言っていましたよ。それでプロトコルって言葉は、こういうときに使うんだと知りました」といった証言が紹介されている。当時の日本の通信技術者からすると、決して当たり前の用法ではなかったことが分かる。

 なお、コンピューターの歴史を専門とするMartin Campbell-Kelly氏によると、「プロトコルという言葉が、データ通信の文脈で初めて用いられた文献」は、“A Protocol for Use in the NPL Data Communications Network”で、これは、1967年4月に発行されたとしている(iii)

 このように、通信プロトコルという語法が使われるようになったのが思いのほか最近であることに驚愕(きょうがく)した。インターネットは全体の管理者がいない「ネットワークのネットワーク」だ。そのような新しい概念を形にしていく中で、新しい語法が生まれているのは面白い。

「国際儀礼」を意味する外交分野での「プロトコル」

 プロトコルにはもとより「手順」のような意味があるが、より業界固有の使い方をしてきたのは外交分野だ。外交におけるプロトコルは「国際儀礼」を意味する。外務省によるとプロトコルの基本原則は、大小に関係なく全ての国を平等に扱うことだ(iv)。これにより、「無用の混乱・争いを避け、円滑な外交の環境を提供」する(v)

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