王立オーストラリア造幣局は、「Donation Dollar」を発行している。この硬貨はただの1ドルではなく、名称の通り、その硬貨を受け取った人に寄付を呼びかける意味合いも持つ。この取り組みは、デジタル価値の流通とも相性がいいのではないだろうか。

(写真/Shutterstock)
(写真/Shutterstock)

 この頃、「ギザ十(ぎざじゅう)」を見ていない。硬貨の側面がギザギザの十円玉だ。筆者が小学生だった30年前には、レアキャラながらも遭遇の機会があり、お釣りでもらうとうれしかった。ギザがあっても、買い物のときには十円の価値しかない。でもギザ十は、できれば使いたくない。代替可能なはずの十円玉なのに代替できない、そんな特別な存在感があった。

 ギザ十は硬貨の仕様変更によるものであり、日本の造幣当局としては何のメッセージもなかっただろう。一方で、王立オーストラリア造幣局(以下、王立造幣局)が発行する1ドル硬貨には特別なメッセージを込めたものがある。2020年9月から発行・流通をしている「Donation Dollar」だ。(ドルは豪ドル。以下同様)

 Donation Dollarは1ドルの価値を持つ公式な通貨だ。しかし、通常の1ドル硬貨とデザインが異なり、「GIVE TO HELP OTHERS」と刻印されている(i)。このメッセージの通り、Donation Dollarが手元に来るたびに、その1ドルを寄付してほしい、と呼びかけている。つまり、流通する通貨そのものが寄付のリマインダーなのだ。これにより、大きな災害の発生時といった特別なときだけではなく、ささやかであっても日常的で継続的な寄付を促す。

 王立造幣局は今後数年をかけて、計2500万枚の発行を予定している。これはオーストラリアの人口と同数だ。すべての国民が月に1度、Donation Dollarをきっかけに寄付をすれば、年間3億ドルが困っている人のために使われる。

この記事は会員限定(無料)です。

10
この記事をいいね!する