できるだけ1つの製品をスケールさせたいメーカーと、自分の生活や好みにぴったり合った製品を求める顧客。両者の溝を埋めるのは、「ソフトウエアのスタッフ」かもしれない。

(写真/Shutterstock)
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 事業者がよく言う「顧客のため」という掛け声にウソや偽りはないものの、事業者と顧客の間にはいくつもの構造的対立がある。構造的対立というのは、事業者と顧客の立場上、避けることができない対立という意味だ。両者の間にある溝と言ってもよい。

 例えば、「対価」は分かりやすい。事業者は多くの対価をほしいが、顧客はできるだけ払いたくない。そうも言ってはいられないので、妥協点となる価格で、両者が手を打つことになる。他には何があるだろう。筆者は、「スケール」に関する対立に興味がある。

 一般に事業者は、同じスペックの製品やサービスに、多くの人から喜んで金を払ってもらいたいと考える。ラインアップを増やさず、カラーバリエーションもなければ、在庫リスクは劇的に減る。サービス業ならば教育コストが下がる。たくさんつくるので、スケールメリットも効いて、価格も下げられる。これは「スケールさせたい」という思いだ。

 一方で、顧客からすると事業者の「スケールさせたい」思いなど知ったことではない。自分の好み、体形、住宅事情、生活習慣、家族構成、懐事情に特化したものであればあるほどうれしい。極端な言い方をすれば「私だけを見てほしい」のであり、これは「スケールしたくない」と言い換えられる。

 事業者側の「スケールさせたい」と、顧客側の「スケールしたくない」、その間には溝がある。メディアやECにおいては、その溝を埋めるために表示のパーソナライズや検索機能がその役割を果たしてきた。では、モノを中心とした価値提供においては、どのような埋め方があるのだろうか。いくつかのパターンを事例とともに見てみたい。

 スウェーデンの家具大手IKEAは、障がい者が自社製品を使いやすくするため、「ThisAbles」プログラムを展開している(i)(ii)。これは、3Dプリンターを用いて補助具を開発し、家具を使いやすいようにカスタマイズできるものだ。例えば、手に力を入れられない人のために用意された「イージーハンドル」と呼ばれる補助具がある。これは、腕の力全体で戸棚の扉を開けられるようにするものだ。IKEAは、自社の強みたる大量生産と、デジタルファブリケーションによる補助器具をうまく組み合わせ、溝を埋めようとしている。

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