JALグループとNTTドコモが、新技術「秘匿クロス統計」を用いた実証実験を2022年11月1日から開始する。この実験、企業のデータ活用を大きく進歩させうる世界的にも先進的な事例だ。プライバシー保護のため、企業横断でのデータ活用は容易ではない。しかし、秘匿クロス統計を用いることで、プライバシーを保護しながら、2社それぞれが持つデータから統計情報を作成できる。それにより得られた新しい知見を活用することで、社会課題の解決や顧客体験価値の向上が実現できる。プライバシー保護のレベルを上げるほど、データ活用の範囲が狭まるというトレードオフの関係をよい方向に崩し、より有効にデータを活用したい──。本取り組みはその実現に向けた、注目すべき事例だ。
サードパーティークッキーの規制強化は、データ流通の世界におけるリーマンショックのようなものだ。このような大事件が起きると、社会全体の規範や価値観、優先順位が大きく変わる。これを契機に、他社に由来するデータの活用は二極化していくと考えている。
一つはデータ提供者に複数企業の理念や目的に心の底から納得してもらい、目的に納得できる範囲で個を追えるデータを共有することだ。ただし、そのような熱量の高い納得を取り付けるのは容易ではないため、サンプル数は限られる。もう1つは、絶対に個を特定できないように統計化されたデータの活用だ。統計化しているため活用範囲は限られるが、改めて同意を得る必要がないため、十分なサンプル数を確保できる。
いずれにも共通するのは、「名ばかりの同意取得」や、「名ばかりの統計化」は許されなくなるということだ。これは不可逆の流れとなっている。
「名ばかり」ではない統計化により、しっかりとプライバシー保護をしたうえでデータ活用を進めようとする面白い事例がでてきた。日本航空とジャルカード(以下両社併せて、JAL)とNTTドコモ(以下、ドコモ)による実証実験だ(i)。
航空会社の課題を、通信事業者のデータで解決?
プレスリリースによると、本実験では搭乗予定客の空港到着前の移動状況を統計的に明らかにし、それを踏まえて定時出発率の向上に向けた施策を講じる。そのために、ドコモが保有する「携帯電話ネットワークの運用データ」と、JALが保有する「国内線航空券の予約データの搭乗に関する情報」から「空港到着前の顧客の移動状況に関する統計情報」を作成する。
ドコモは長らく携帯電話の運用データを用いる人口統計情報、「モバイル空間統計」を提供している。本実験は、JAL利用顧客を対象として、人口統計情報を作成する取り組みと理解すればよいだろう。
顧客の搭乗予約や搭乗タイミングについては、JAL自社のデータから把握できる。しかし、搭乗予定客が早々に空港付近に到着しているのか、それともギリギリまで自宅にいるのかといった、「空港の外」での状況はわからない。空港到着前の状況が分かれば、定時出発率を上げるために、より適切な施策を講ずることができる。そこを、ドコモのデータを活用することで明らかにする。
新技術「秘匿クロス統計」 3つのプロセスが生む安全性
この実験を実現するために使うのが、NTTグループが開発した「秘匿クロス統計」だ。これはどのようなものか。
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