ある施策が根拠に基づいた「正しい」ものであるからといって、その施策が納得して受け入れられるとは限らない。合意形成のためには丁寧なプロセスが求められるが、そこには膨大な事務的作業も付随する。そうした手間を解決することで、人間同士の対話を円滑にすることは、デジタルの真骨頂だろう。

(写真/Shutterstock)
(写真/Shutterstock)
[画像のクリックで拡大表示]

 「耳のシャッター」という言葉がある。例えば、「その話をしても、まだ耳のシャッターが閉まっているからだめだ」とか「田中さんは、あの人の話なら耳のシャッターが開くな」と使う。老練な営業マンである先輩がよく使っていた言葉だ。どんなにいい話でも、相手が話を聞く体勢に入っていなければ、話を聞いてもらえない。そのことをシャッターに例えている。

 耳のシャッターが閉まっていると、どんな事実も論理も意味をなさない。「結論から話せ!」と不機嫌に言う人に結論から話すと「背景が分からん!」となるし、背景から話せば「結論を言え!」となる。一通り説明をしても、本題と違うコメントが始まる。これは、話の内容や構成が悪いのではなく、そもそも話を聞く体勢になっていない。すなわち、耳のシャッターが閉じている。

 1人の聞き手にシャッターを開けてもらうのも難儀であるが、相手が集団となればより難しい。加えて、聞き手に不利益があるような話であればなおさらだ。例えば公共施設の運営に関する住民との合意形成は、その代表例だ。東洋大学教授の根本祐二氏は、そうした場での合意形成のための手段として「討論型世論調査」を活用する(i)

 討論型世論調査は、話し手による「ご説明」から始まらない。まず、聞き手に対して質問を投げかける(ii)。例えば、公共施設の運営を官民連携で行う、というテーマのときには、「民間に任せると公共性が失われる」といった批判の是非や、その理由が分かるかどうかを尋ねる。その上で、それぞれの論点に沿った説明を行い、説明・討議後に改めて質問をする。そうすると、事実に基づいた理解をする割合が劇的に高まる。

この記事は会員限定(無料)です。