人工妊娠中絶に関する米連邦最高裁の判断が、位置データやヘルスケアデータをはじめとした、米国のデータ流通に大きく影響を及ぼしている。健全なデータ流通を実現するために、あらゆる場面でのデータ保護の見直しが今後必要となるだろう。

(写真/Shutterstock)
(写真/Shutterstock)

 米国でデータ流通にまつわる議論が白熱している。きっかけは2022年6月の人工妊娠中絶に関する米連邦最高裁の判断だ。1973年に下された人工中絶権を認める判決の破棄は、日本国内でも大きく報道された。これにより、人工中絶の可否は各州が判断することとなった。しかし、人工中絶とデータ流通の何が関係するのだろうか。

 プライバシー保護団体などが危惧するのは、次のような状況だ(i)。人工中絶が禁止・制限される州では、関連する病院への訪問履歴は、患者や医師が禁止行為をした証拠となりうる。そのため、そのようなデータの提出を法執行機関が求めるようになるのではないか、という懸念である。このようなデータの使われ方が横行すれば、生殖医療へのアクセスが著しく阻害されてしまう。

 米国政府は最高裁判断を批判している。2022年7月8日には、「生殖医療サービスへのアクセス保護に関する大統領令」を発表(ii)。この中では、医療サービスへのアクセス保護のほか、プライバシー保護のための指示が次のようになされている。

Sec.4.(b)患者のプライバシーに関する潜在的な脅威に対処すること。脅威としては、機微な健康関連データの移転や販売に由来するものや、生殖医療サービスに関連するデジタル調査に由来するものがある。また、生殖医療サービスを求める人を詐欺的な行為から守ること。

 本項目に関しては、連邦取引委員会(FTC)委員長に対して現行法を用いて消費者のプライバシー保護に取り組むよう、指示が出されている。FTCは日本の個人情報保護委員会のような役割の組織だ。大統領令が発表された直後の7月11日、FTCは「位置データ、健康、およびその他の機微情報の不正利用や流通について、法を厳格に執行する」と題した見解を発表した(iii)、(iv)

 見解の中では、一般的なデータ収集やその関連付けによる悪用への注意のほか、「名ばかりの匿名化」に対しても言及している。「企業は匿名化や統計化をしていると言うことによって、消費者のプライバシーに関する不安をなだめようとする」「(しかし、)“匿名化”されたデータはしばしば、再識別できてしまう」と注意を促す。

 特に位置データについては要注意だという。「いつ、どこにいたのか」という情報が数件あるだけで、かなりの精度で個人を特定できてしまうためだ。ある研究では150万人のデータについて、そのうちの95%の識別が可能になったという事例を挙げて警告している。

有料会員になると全記事をお読みいただけるのはもちろん
  • ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
  • ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
  • ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
  • ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー
ほか、使えるサービスが盛りだくさんです。<有料会員の詳細はこちら>
3
この記事をいいね!する