視覚障害者にスマホからの音声や振動で信号機の状態を伝えたり、ドアの開閉状態を伝えたりするなどの、新システムが生まれている。こうした人間の能力を補完・拡張するものがテクノロジーによって実現されつつある。

(写真/Shutterstock)
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 「カッコー、カッコー」あるいは「ピヨピヨ、ピヨピヨ」と鳴る信号機がある。信号機によっては、「とおりゃんせ」の音楽が鳴るタイプもある。これらは音響式信号と呼ばれ、視覚障害のある人のための仕組みだ。「カッコー」は幅の広い横断歩道、「ピヨピヨ」は狭い横断歩道と、使い分けがされているのだという(i)

 筆者は知らなかったのだが、この音響式信号は、夜間は音を止めることが多い。近隣住民への配慮のためだ。一方で視覚障害者からは「音響は歩行者や車両の通行が少ない夜間ほど必要」という意見もある(ii)。そのため、押しボタンを押したときのみ音響が出力されるようなタイプも用意されてきた。

 この課題に対して、2020年から「高度化PICS」という新しい仕組みが導入され始めた。PICS(ピックス、Pedestrian Information and Communication Systems)は「歩行者等支援情報通信システム」を意味する(iii)。高度化PICSは、 Bluetoothによって信号機からスマホのアプリへ、歩行者用信号情報を送信する。信号がどのような状態にあるか、アプリによる読み上げや振動によって歩行者に伝えられるのだ。また、手元のアプリから青信号延長の要求もできる(iv)

 これは、人間の能力を情報通信技術によって補っている好例だ。信号機からの情報を、その人が理解しやすい形に変換して伝えている。

 情報通信技術の中でも、最近はAI(人工知能)を活用して、能力補完を行う事例が増えている。AIは人間の認知・判断を代行するものだ。能力補完との相性は当然良い。インフラなど、認知される「客体」が対応するとコストがかさんだり、受益者以外への負担が生じたりする場合も多い。そのようなときに、認知の「主体」が必要に応じて補完するのは合理的だ。

 AIを活用して、能力補完を行う事例を2つ紹介する。アップルは、22年後半に視覚障害のあるユーザー向けに「ドア検知機能」の提供を開始する(v)。これは新しい場所を訪れたユーザーがiPhoneやiPadを用いて、目的地まで最後の数十センチのナビゲーションを受けることができるものだ。

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