企業にとっての「パーパス」がなぜ大切なのか。それは、パーパスがないと組織が“股裂き”の状態となり、辻つま合わせの意思決定に疲弊し、前向きな意思決定をするスピードが遅くなってしまうからだ。企業の成り立ちを踏まえて、パーパスの重要性を改めて考えたい。

企業は、顧客、投資家、従業員などとの約束の間で“股裂き”が生じることがある(写真/Shutterstock)
企業は、顧客、投資家、従業員などとの約束の間で“股裂き”が生じることがある(写真/Shutterstock)

 そもそも、企業は勝手に生まれない。創業者が何かを実現するために、わざわざつくる。また、創業者がそれを1人で実現できるなら、企業を作る必要はない。実現のためには他人の力を借りる必要がある。

 愛情深き両親や、人情深き寅さんならばいざ知らず、赤の他人から力を借りようとするときには、説明と約束が必要になる。「私は社会の中でこのような役割を実現したい。なので力を貸してもらえないだろうか。我々の仕事がうまくいった暁にはあなたにとってこのような望ましい状態になる」という説明・約束だ。

 では、「他人の力」とは誰の力なのか。代表的なところでは、顧客、従業員、投資家となる。商品やサービスに対価を支払うことによって力を貸してくれる顧客。ともに働くことで力を貸してくれる従業員。リスクを負ってまで大切な金を出してくれる投資家。顧客、従業員、投資家と、役割はさまざまであるが、いずれも創業者に力を貸してくれる「他人」である。そして、借りる力の種類によって説明と約束の呼び名は変わる。

 「ブランディング」は主に顧客を対象とした約束だ。我が社の製品・サービスを使ってくれたらどのようないいことがあるのか、望ましい生活になるのかを説明し、約束する。そして他の誰でもない、自社を選んでほしい、力を貸してほしいと伝える。製品・サービスを選択する、対価を支払う、パーソナルデータの利用に許諾する、他の顧客にお勧めする。いずれも、説明と約束に納得した顧客が貸してくれる力だ。

 従業員としての力を借りるためにどのような説明が行われているか。リッツカールトンが採用していることで有名になった「クレド」は従業員との間で交わす説明と約束の一種だ。そもそもクレドはラテン語で「信条」や「約束」といった意味を持つ。インナーブランディングも、従業員に対する説明と約束である。

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