産業革命の基盤となった蒸気機関のそもそもの用途は、実は炭鉱における揚水ポンプだった。それがいかにして長い時間をかけて社会全体へと波及し、革命を起こしたのか。同様に、ウェブなどに代表される現代の基盤技術が今後どのように展開して社会を変えていくかを想像してみるのもおもしろい。

 18世紀の英国で産業革命は起きた(i)。その基盤となった技術は蒸気機関だ。では、蒸気機関の最初の用途は何だったか。自動の紡績機械や蒸気機関車の絵が浮かぶが、それは随分時代が下ってから出てきた花形用途だ。蒸気機関の原始的な用途は揚水ポンプであったという。炭鉱で使われる「水をくみ上げるためのポンプ」だ。なぜ揚水ポンプが最初の用途であったのか。その理由がおもしろい。

 揚水ポンプが解決すべき課題は明らかだった。炭鉱を掘り進めば水が出る。それをくみ出さなければ採掘が進まない。一見すると、その解決のために蒸気機関を使うというのは順当に思える。しかし、当時の蒸気機関は燃費が悪かった。コストが高くなるので「人間がやったほうが安い」という話になりかねない。

 ところが現場は炭鉱だ。売り物にならないクズ炭がいくらでもある。炭鉱で、クズ炭を使っている限りにおいては、投資対効果に見合う手法となったのである。また、当時の英国は諸外国と比べても人件費が高かった。このことも蒸気機関が活用される追い風になった。このように極めて限定的な状況でのみ力を発揮した初期の蒸気機関であったが、改良が重ねられ、紡績や輸送の領域にも適用されるようになった。

 筆者はこの話が大好きだ。社会を変えるような新しいテクノロジーは、かなり特殊な状況のなかで芽吹き、長い時間をかけて社会全体へと波及していく。時代が下ってから振り返ると、「基盤技術としての蒸気機関、最初のキラーアプリとしての自動紡績機械、その結果として生じた産業革命」は1つのパッケージであるかのように語られるが、実際にはそれぞれの間には長い間隔がある。

 ウェブ(World Wide Web)もかなり特殊な状況のなかで芽吹いた。ウェブはよく知られるように欧州原子核研究機構(CERN)で1989年に誕生した(ii)

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