組織内のリソースを「本当に大事なこと」に集中させるため、それ以外の仕事をAI(人工知能)に任せたり、外部に発注したりすることはよくある。しかし、それは人が育つ機会を奪うだけでなく、知識のブラックボックスを生み出し、いつの間にか組織から知恵を奪うことにもつながりかねない。そうした事態への対応策として参考になるのが「オープンソース」の考え方だ。
米軍はテクノロジーに対して多額の投資をしてきた。投資対象は時代とともに変わる。第1世代は核兵器やスパイ衛星、第2世代はステルス技術や精密誘導弾。現在は、それに続いた第3世代の技術開発が進行中だ。
この中心となるのがAIと情報処理技術だ。例えば、「変化する環境に合わせて自力で学ぶ自律学習タイプのシステム及びマシン」が相当する。元米国空軍少将で、長く兵器開発に携わってきたロバート・ラティフ氏による『フューチャー・ウォー』では、先鋭的なテクノロジーと軍隊がどのように関わってきたのかが描かれている(i)。
前述の「目下の注力テーマはAI」という点は容易に想像できる。しかし、ラティフ氏による「軍隊へのAI導入の弊害」に関する見解が興味深い。ラティフ氏は、自律型システムが普及すれば、最前線における経験豊かな現場指揮官は確かにいらなくなるが、それは同時に自律型システムでは解決しない高度な意思決定ができる人材を育成する機会を失うことになる、と懸念する。
米国陸軍のダニエル・スクマン少佐も、同様の指摘をする。「戦術レベルの現場指揮官をなくすことは、やがて一つの作戦、あるいは戦略を担うようになる軍の明日のリーダーたちから、貴重な実体験の場を奪う結果になるだろう」
これはよく言われる「AIが仕事を奪う」とは似て非なる課題だ。「仕事を奪う」は働き手にとっての課題だが、「人を育て、選抜する機会を奪う」は組織にとっての大きな課題となる。「AIに任せて効率化をするつもりが、組織としてもともと備えていた能力を失う」話であり、恐ろしい。
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