医療における意思決定といえば「インフォームドコンセント」につきると思っていたが、「SDM(Shared Decision Making)」という考え方もあるということを知って驚いた。このSDMという考え方は、医療以外の領域についても関係しそうな話であるため紹介したい。

(写真/Shutterstock)
医療者と患者が共同して意思決定するSDMが広まりつつある(写真/Shutterstock)

 群馬大学大学院医学系研究科の小松康宏教授による、「医療における意思決定がどのように変遷してきたのか」という話を紹介する。まず1970年代までは「パターナリズム」が一般的だった。医療者が患者にとっての最善方針を決定するから、患者はそれに従っていればよろしい、というアプローチだ。80年代後半になると前述の「インフォームドコンセント」が広まり始めた。医療行為について医療者が患者に十分な医学情報を提示・説明し、患者が決定を下すというアプローチである。

 SDM(i)は第3のアプローチであり、「共同意思決定(Shared Decision Making)」の略である。医療者と患者が共同して、患者にとって最善の決定を下すためのコミュニケーションプロセスを意味する。大きな違いはインフォームドコンセントにおける意思決定者が患者とされていた一方で、SDMは医療者と患者の双方で意思決定をする点にある。

 双方による意思決定を特徴づけているのが、患者の価値観やライフスタイル、それを踏まえた意向や懸念事項を医療者に対して伝えることが明示されていることだ。パターナリズムにせよ、インフォームドコンセントにせよ、医療者と患者の間でやり取りされる情報は医療情報だけだった。しかし、SDMにおいては広範なライフスタイルに関する情報についても共有する。

 例えば、日々の仕事や家事において、患者がどのような役割を担っているのか。生活や趣味、生きがい、将来してみたいと考えている夢などがライフスタイル情報だ。病院での拘束時間が長い治療法にするか、通院時間は減るけれども自宅で過ごす時間が増える治療法をとるか。そうした選択をするうえでは、非医療情報も勘案する必要がある(ii)

 小松教授はSDMを通して実現されるべき患者参加型医療について、「検査値の改善や生存率延長といった“医療者視点”よりも、“患者にとって価値があるかどうか”を重視すること」と示している。別の専門家は、「患者の見解や選択は、医学的に最適な治療法とは異なる場合がある」と解説している(iii)

 これは、SDMが「患者の事情をよく聞こう」というかけ声の話止まりではないということを意味する。医療という極めて専門性が高い“B2Cサービス”において、「医学的なKPI(重要業績評価指標)だけに最適な治療法」に固執するのはやめよう、「医学的に最適」であることがその患者にとって「最適な治療」とは限らないと言っている。SDMが、そんなところまで踏み込んだ考え方であることにはびっくりした。

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