金を稼ぐことに直結はしないが、そうした期待の下で行われる“愛を育む工程”がある。例えば、富裕層向けの証券営業は顧客の関心を引く話題を何でも持ち込むが、金融商品の説明などは後回し。そうして深い関係を構築した上で、自社の金融商品を買ってもらう。デジタル技術を駆使すれば、それぞれの顧客に適した“愛を育む体験”を提供できるはずだ。

(写真/Shutterstock)
“愛を育む工程”は、どのように商売に結びつくのか(写真/Shutterstock)

 もんもんと考えているテーマがある。「愛を育む工程と、金を稼ぐ工程は別」と「愛はスケールしない」という2点だ。これだけではちょっと意味が分からないかもしれないので、事例を交えながら紹介したい。

 考えるきっかけとなったのは証券会社の人の話だ。証券会社というと一般的な企業とは全く別の世界のように感じるかもしれないが、「売り物がコモディティー」の大先輩という点では我々も学ぶべきことは多い。

 「売り物がコモディティー」とはどういうことか。例えば、「株式」という商品を扱う証券会社だが、どこの証券会社で買っても株は株。品質や性能にもちろん違いはない。では彼らはどのようにして自社から株を買ってもらうのか。

 富裕層向けの証券営業の話を実際に聞いてみると分かるが、金融商品の説明などは後回しだ。優秀な営業は、世界経済の動向や新政権の行方、面白いベンチャー企業の紹介など顧客の関心を引く話題であれば何でも持ち込む。そうした“ワクワクするような会話”では対価は取れない。だが、顧客とそうした関係を構築した上で、「どこで買っても変わらない金融商品」を数千万円分買ってもらう。そして手数料収入を得る。

 つまり、ワクワクするような会話という“愛を育む工程”と、実際に金融商品を買ってもらい手数料を取るというコモディティー化した“金を稼ぐ工程”は、結びつきが緩やかな「疎結合」なのである。愛を育む工程で満足してくれたとしても、金を支払ってくれるとは限らない。その疎結合である不安を乗り越える勇気がなければ、なかなかこのような商売はできない。

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