ブロックチェーン技術を活用した社債が20年3月に日本で初めて発行された。デジタル化により、社債の配当の自由度が向上。より柔軟な金融商品の可能性が広がった。社債の配当、高級レストランやゴルフ場の会員権など、権利のデジタル化によって、その流通基盤が大きく変化しようとしている。

(写真/Shutterstock)
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 BOOSTRY(ブーストリー)は、ブロックチェーンを用いて権利のデジタル化を支援する企業だ。野村ホールディングスなどの出資により2019年に設立された。野村グループだけに金融サービスだけが関心事かと思いきや、マーケティング領域にも踏み出している。一見畑違いの領域に手を出すのはなぜなのだろうか。ブーストリーのCEOである佐々木俊典氏に聞いた。

 まずは同社の金融領域での施策を見てみよう。ブーストリーは野村総合研究所の社債発行を支援している。野村総合研究所はこれにより、ブロックチェーン技術を活用した社債を20年3月に日本で初めて発行した(i)。通常手作業で管理される権利者の管理などをデジタル化したのだ。

 また、社債の権利者には、利息の代わりにデジタルアセットが付与される。ここでのデジタルアセットとは、具体的には野村総研社内のカフェで利用可能なポイント。権利者に対して「配当金」の付与を行うことは社債の基本的な機能だ。ところが、この事例のような特定の店で利用可能なポイントを付与することは容易ではない。もしも既存の仕組みのなかで実現しようとすれば、権利者に対して紙のクーポンを郵送するしかなかった。そのような金融商品について、デジタル活用により自由度を高めた。

 これは例えるならば、投資家を特定の店舗に送客しているようなものだ。佐々木氏はこのような機能に大きな可能性を感じ、「金融商品の組成・流通コストを下げたり、より柔軟な金融商品の提案はもちろん進める。しかし、より自由度の高い投資家との関係づくりに使える基盤にしたい」という。

 その考えのもと、21年8月には同社が開発するブロックチェーン基盤「ibet」を用いて、金融商品ではないデジタル会員権の発行支援も始めた。対象はフードブランド「アグリッチャー野」だ。これは、野村アグリプランニング&アドバイザリーなどと、イタリアンレストラン「アル・ケッチァーノ」オーナーシェフの奥田政行氏による会員組織だ。

 年4回の食材・料理デリバリーの他、奥田シェフのレストランでのイベントや裏メニューの提供、会員限定のコンテンツ配信などが行われる。奥田シェフのファンのうち、熱量の高い人達が中心となったファンクラブのようなものと理解すればよいだろう。

 会員は、ゴルフ会員権と同じように、会員権本体の費用に加えて年会費を支払う。また、一度購入した会員権を他者に売却する二次流通の仕組みも提供予定だ。費用の支払い、会員権の付与・管理、将来的な二次流通はibet上で実現される。

 より気が利く金融商品の組成は分かるが、どうして会員権まで支援するのか。

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