ビルの“デジタルツイン”を活用したプラットフォーム「Neuron(ニューロン)」を開発した専門家集団「アラップ(Arup)」。複数のバックグラウンドや専門領域を持つスタッフが混在するような状況を意識的に作り出し、それぞれの領域の壁をなくしたことで、建築業界とデジタルをうまく連携させることができた。

(写真/Shutterstock)
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 アラップ(Arup)は、建設業界では国際的に名の知れた専門家集団である。巨大建築物の設計や都市計画のプロジェクトマネジメントなどを行う。日経アーキテクチュアのような建設業界向け媒体の記事を読んでいると頻繁にその名前が出てくる。

 一見するとITとまったく関係のなさそうなアラップであるが、最近になってスマートシティーに関する議論の中で話題に上ることが増えている。「都市OS」ならぬ「建物OS」として、「Neuron(ニューロン)」という名前のプラットフォームサービスの提供を開始したためだ(i)

 ニューロンを導入したのは、香港の41階建ての複合施設「One Taikoo Place」。建物の設計データや運用データを統合し、エネルギー需要予測や空調などの建物システムの最適運用、故障の検知・予測などを行う。いわばビルの“デジタルツイン”を活用したプラットフォームだ。2020年には香港の建設業界やコンピューター学会から賞が贈られている(ii)(iii)

 20年6月には、ニューロンに感染症対策の機能が追加された(iv)。建物入り口の体温計測カメラの運用に際して、周辺温度を踏まえた自動補正を行うことで、発熱している来訪者をより高精度に特定できるようになった。ハードウエアの利用開始後に、ソフトウエアの更新によって新たな価値が付与されるというのは、家電や米テスラの自動車といった先行事例があるが、こうしたビルもその対象となったというのは趣深い。

 また、アラップは、23年に北海道北広島市で開業予定の新球場「エスコン フィールド北海道」においても人流シミュレーションを担当している(v)。ニューロンを活用したものではないが、施設の設計データを活用し、球場の運営において安全性に問題がないか検証している。例えば打球がどのように飛んでくるのか、バウンドしたボールはどこにいくのか、それは観客に対して危険なのかといった検証や、休憩時間の売店やトイレの混雑、避難安全性の確認などもシミュレーションで行われている。

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