ソフトの力で商品の魅力を高めた商品が増えている。秀逸なノイズキャンセリング機能を搭載したヘッドホンや米テスラの自動運転オプション、豊富なコンテンツを用意したゲーム機や電子書籍端末などがそうだ。いずれもハードがネットワーク接続機能を備えるようになったために生じた変化と言える。ソフトの力でハードのもうける力を引き出すさまざまなパターンを探った。

(写真/Shutterstock)
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 ソニーが2020年に発売したワイヤレスヘッドホン「WH-1000XM4」を遅ればせながら購入した。予想を超えた気の利きように感動している。ノイズキャンセリング(ノイキャン)の調整が、実にいいあんばいなのだ。

 その調整を担うのが「アダプティブサウンドコントロール」だ。この機能は、利用者の状況に応じてノイキャンの強さを自動的に調整してくれる。静かに座っているときには外音をできるだけカットしてくれるし、歩き始めると自動車の音が聞こえる程度には外音を取り込むようになる。また、青信号に間に合わせようと小走りになるとさらにノイキャンが弱まる。また、コンビニに入るために、ヘッドホンを外すと再生中の音楽は自動的に一時停止される。再び装着すると、これまた自動的に音楽が再開する。

 この手の自動調整機能はたいてい、「そうじゃないんだよなあ」になりがちなのだが、WH-1000XM4は実に見事なちょうどよさで音楽をかけてくれる。

 私は音質について講釈できるほど耳が肥えているわけではないし、正直そこにはあまり興味がない。日常生活の中で気軽に音楽を楽しみたいだけだ。そんな私にしてみると、このヘッドホンは「品質の良い音」だけではなくて、ノイキャンの制御を通じて「音楽の使い勝手」を良くしてくれた。実勢価格が3万8000円程度と安くはないが、まさにいい買い物したなあ、と思わされるものであった。

 この事例では、ノイキャン制御のソフトがハードの価値を高めている。何円分なのかとは評価できないが、3万8000円のうち少なくない寄与をしている。一方で、ソフトは別売りにしてハードを安く売る、ということはしていない。ハード・ソフト一体不可分での価値提供だ。ちょっと下品に言えば、優れたソフトでハードをより高く売ることに成功している。少なくとも、私は今のヘッドホンが壊れてしまっても、ノイキャンソフトへの期待とともに同系機種をまた同じような値段で買うだろう。

 これを一般化して言えば、ソフトの力でハードの儲ける力を引き出している。課金パターンは、ソフト単体での値付けはせずに「ハードの価格を高く設定できる」というものだ。ソフトの力でハードの儲ける力を引き出そうとしたときに、他にはどのようなパターンがあるのだろうか。

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