帝国ホテルのおもてなしには、学ぶべきところが満載だ。よく出てくるキーワードは「目配り」「気配り」で、宴席中の人のある挙動で、用事がある人、あるいは気分が優れない人を見抜くことができるという。図らずもこの同じ動きを不審者検知システムに生かしているのがロシアのセキュリティー企業だ。
帝国ホテルのレストランでは、水がグラスの3分の2になったらお代わりを注ぐように指導されている。グラスは透明だからすぐに分かるけれど、コーヒーカップの場合にはどうするか。先輩スタッフからは「コーヒーカップと口の角度で、残量が分かる。残り少なければカップの角度が垂直に近くなる(から目配りをしておくように)」と口伝される。
帝国ホテルのホテルマンであった川奈幸夫氏の『帝国ホテル伝統のおもてなし』には、このような「へー! なるほどな!」と膝を打つエピソードが満載だ(i)。
例えば、同じくレストランのエピソードとしては「お客様の食事や会話のペースを把握し、それを踏まえて次にすべきサービスを予測せよ。まるで背中に目がついているかのように仕事ができる」とか、バーにおいては「グラスを出すとき、一杯目は所定の位置に出すが、二杯目はお代わりを承ったときのグラス位置にお出しせよ。それがお客様のお好みの位置だからだ」といった話も紹介されている。
同じくよく出てくるキーワードが、「目配り」「気配り」だ。言葉としては誰でも知っているけれど、上のエピソードのようなレベルで実装されていると聞くと心が震える。なかなか敷居が高いが、一度泊まってみたい。
「目配り」はセンシングであるし、「気配り」はアナリティクスだ。そしてデジタル活用が一般庶民にもたらす便益の多くは「金持ちごっこ」だ。お抱えの運転手は配車アプリで代替され、秘書はいないけれどもAI(人工知能)が日程調整をしてくれる。大手証券会社の窓口では軽くあしらわれる人も、ロボアドバイザーならば丁寧に話を聞いてもらえる。マクドナルドだってアプリで注文すれば、待ち行列を飛ばしてVIPのように商品を受け取れる。室内の清掃、空調、音楽をつかさどる執事はもちろんいないけれど、スマートホームがなんとなく代替してくれる。ルンバは、愚直な働き者のナイスガイだ。
デジタル活用でパーソナライズ、というのはよく分かるけれども、何をどういうレベルでパーソナライズするのかを考えるときには、帝国ホテルが出しゃばりになることを戒め、控えめなサービスを心がけていることからヒントが得られるように思う。
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