「息継ぎができない」。小林幸子さんがボーカロイドの曲に挑戦したとき、その難しさを語った一言だ。歌手にとってボカロは思わぬ進化だったわけだが、このような想定外は、我々の生活のあらゆる部分に存在する。1983年に当時の郵政省が描いた「未来予想図」はどれぐらい当たったのか、何を見落としたのか、答え合わせをしてみよう。
2021年で芸能生活57周年を迎える小林幸子さんが、NHK紅白歌合戦でボーカロイド(ボカロ)の曲を歌って話題になったのは15年のことだ(i)。ボカロとは、歌詞とメロディーを入力すると好みの歌声で歌ってくれるソフトウエアだ。
幸子さんは、ボカロ曲について「実際に聞いてみると、今まで聞いたことがないようなものばかり。カルチャーショックでした」と言っていた(ii)。歌手として半世紀のキャリアを持つ彼女にとって何が驚きだったのか。14年のインタビューの中でとても印象深い話をしている。インタビュアーからボカロ曲を歌うことの難しさを尋ねられると「ブレス(息継ぎ)がないこと」と答えていたのだ。
言われてみると当たり前なのだが、生身の人間が歌うことを前提としている曲は、人間の仕様に合わせてどこかで息継ぎをするような設計で作曲されている。しかし、ボカロ曲はソフトウエアが「歌う」ことを前提としているので、その曲を生身の人間がカバーしようとすると息が続かない。幸子さんは「私の50年の引き出しを色々と開けながら、どこでブレスしようか、歌い方を試行錯誤しました(笑)」と振り返る。
ボーカロイドの開発者が、「ブレスが不要となることによる、これまでとは違う曲調」を意図していたのかどうかは分からないけれども、ソフトウエアによる代替が思いもよらない変化が生じさせ、幸子さんがそれを楽しんでいる。
ボカロにおける想定外の変化は音楽文化を豊かにしたものだから結構だが、自分がその想定外を予測するとなれば話は別だ。未来のことを考えるとき、非常に大きな根源的な変化を読み損ねることはよくある。後から振り返ったときに、「どうしてあれに気づかなかったんだろうね」といったことだ。この先、どういう変化が起きるのかを考えるときに、自分もそういう見落としをしているのではないかと怖くなる。そのような見落としを忘れないための戒めとして、筆者が折に触れて見直しているのが、下の図だ。
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