沖縄の海を照らす太陽の光や波の動き、海水の流れなどをそのままIoTで同期させる「環境移送」を行っているスタートアップが東京・虎ノ門にある。生態系を守るための「方舟」と言うべき取り組みだ。さまざまな要素を個別に分解せずに、総合的に最適化を図るその手法は、スマートシティの考え方と軌を一にしている。
オフィス街、虎ノ門。小ぶりなビルにたどり着き、飲食店の脇にある細い階段をのぼった先にある扉を開くと、都内で“唯一”の美しいサンゴ礁生態系を見ることができる。ここは「環境移送」という聞き慣れない技術の研究開発に取り組むスタートアップ企業、イノカの本社だ。イノカは、環境移送技術を活用し、サンゴを中心とした生態系の人工的な再現に取り組んでいる(i)。
イノカの取り組みを紹介する前に、サンゴの基礎知識を確認しておこう。サンゴは動物の一種であり、小さな個体が群れになってできている。また、サンゴと言えばその鮮やかな色が特徴だが、そもそものサンゴの色は茶色。紫、青、緑、赤などの色は、人間で言えば日焼けかホクロのようなもので、サンゴが紫外線から身を守るために生成しているものだ。
そのため、海の中のサンゴと同じように発色させるためには、紫外線に照らされる量が良いあんばいとなる必要がある。また、サンゴの色のみならず、そこに住む多様な生物も含めた生態系全体を再現しようとすれば、波の強さや、海水の温度、海水の成分も実際の自然環境を再現しなければならない。例えば、波の強さは海中の水の動きに影響を及ぼすし、海中の水の動きはエサを捕食者の元に送り届けることに影響するからだ。
このような環境を再現するために、イノカはIoT技術を活用する。サンゴの採種元である沖縄の久米島付近の海の水温などを測り、水槽の中が同じ状況になるように再現する。沖縄の海と虎ノ門の水槽を同期させることで、サンゴを育んでいるわけだ。
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