患者の薬や注射を取り違えないために、医療現場で必須とされていたダブルチェック。この有効性を疑問視する、非常に興味深い資料がある。長らく会社で“神聖視”されてきた不可侵なルールであっても、果たして本当にそれが有効かつ効率的なものなのか、一度立ち止まってみるのもいいかもしれない。

 タイトルからして刺激的かつ「大変な仕事だっただろうな……」と感じさせる資料があった。題して「ダブルチェックの有効性を再考する」(i)。著者は、京都大学医学部付属病院の医療安全管理部長である松村由美氏だ。

 ダブルチェックは、ミスを防ぐために医療の現場で重視されているプロセスだ。例えば注射する際に、患者と薬剤がそれぞれ合っているかを複数の看護師がチェックする、あるいは処方箋と薬の内容が合っているか、薬剤師2人が時間差で確認する、などが典型例だろう。

 普通の民間企業でも、丁寧で間違いのない仕事における具体的な手続きとして「ダブルチェックをします」というケースは多い。もっと深刻な場合としては、始末書・改善報告書だろう。不注意により大変な間違いを起こしてしまった。深く反省し、再発防止のための具体的な施策としてダブルチェックをするようにルールを整える……といった文脈でよく登場する言葉である。

ダブルチェックは病院のみならず、あらゆる会社で行われるミス撲滅の手段だが、その有効性を正面から分析したものは少ない(写真/Shutterstock)
ダブルチェックは病院のみならず、あらゆる会社で行われるミス撲滅の手段だが、その有効性を正面から分析したものは少ない(写真/Shutterstock)

 松村氏は、医療事故の再発防止策の中で頻繁に言及されるダブルチェックは、「“神聖な牛”(sacred cow)になってしまっているのではないか?」と問題提起している。神聖な牛とは、文字通りインドでの聖なる動物として扱われる牛の意味のほか、批判・攻撃のできない人・思想・制度など、という意味も持つ。その上で同氏は、このダブルチェックが有効な状況、無効な状況、むしろ悪影響を及ぼす状況について丁寧な分析を行い、それを実際に勤務先の病院に適用していったプロセスを紹介している。

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