患者に薬を正しく服用してもらうための概念「アドヒアランス」。病気を治すという本来の目的はもちろんのこと、製薬会社や調剤薬局にとって、その薬の治療成績を上げるためにも重要なキーワードだ。自動車や食品などあらゆるメーカーで応用できる概念のため、知っておくべきだろう。
「アドヒアランス」という概念がある。製薬会社や調剤薬局といった薬学・医療業界の人と話をするときに出てくる言葉で、それ以外の業界で使われるのは聞いたことがない。しかし、一部の業界だけに限定するにはもったいない、さまざまな業界において注視すべき必修のキーワードであるため紹介したい。
アドヒアランスは直訳すれば「遵守」であり、日本ジェネリック製薬協会(JGA)の解説によれば、「患者が治療方針の決定に賛同し積極的に治療を受ける」という意味になる(i)。服薬に限って言えば、正しい薬を、正しい分量で、正しいタイミングに服用することだ。
製薬業界のビジネス視点でも重要
「遵守」を意味する身近な言葉としては、「コンプライアンス」がある。JGAによるとコンプライアンスが「医療従事者による一方的な指導」であることに対して、アドヒアランスは「医療従事者と患者の相互理解をもとに、患者が積極的に治療に参加すること」としている。患者が自分の病気を理解した上で、治療に主体的に参加することで、より高い治療効果が期待できるという考えだ。
アドヒアランスは治療のみならず、製薬業界におけるビジネスの観点でも重要だ。調剤薬局からすると、ある期間に10回服用されるべき薬が9回しか服用されなければ、売り上げが減少してしまう。また、適切に服用されず治療成績が上がらなければ、薬の評価が下がってしまう。そのため、テクノロジーを活用して、アドヒアランスを向上させようとする取り組みが数多く登場している。
イスラエルのKehealaは携帯電話のメッセージ機能を用いて、双方向の服薬指導を行う(ii)。所定の時刻になると患者のもとに服薬を促すメッセージが届く。服薬を完了した患者がその旨を返信すると、感謝のメッセージが送られる。返信がない場合はリマインドのメッセージ送信や、スタッフによる電話での督促が行われる。医療環境や治療のために必要な情報が不十分なケニアで1200人の結核患者を対象に行った研究では、Kehealaのサービスを利用しない群の12.6%が治療を中断してしまった一方で、利用した群は4.2%のみの中断にとどまった(iii)。
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