前回は、あるホテルがチャットボットを活用し、顧客からの問い合わせに真摯に対応しようとする試みを紹介した。長期・継続的に関係を持つようになった事業者に対して今、顧客は「正直さ」を求めている。こうした要請にテクノロジーでどう応えればよいのか、今回も考察してみたい。

顧客からの問い合わせに対応すべく、AIを活用したFAQシステムを活用しているのが箱根の老舗旅館「一の湯」だ(写真/Shutterstock)
顧客からの問い合わせに対応すべく、AIを活用したFAQシステムを活用しているのが箱根の老舗旅館「一の湯」だ(写真/Shutterstock)

 箱根で老舗旅館を経営する一の湯は、顧客からの問い合わせに対応すべくAI(人工知能)を活用したFAQシステムを導入している(i)。ホームページ上で質問を受け付けており、例えば「お部屋での食事はできますか?」と入力すると、「客室での飲食許可を申請していないため、お部屋での食事提供は行っておりません。各宿での指定された場所(レストラン、宴会場など)でのみお召し上がりいただけます。(後略)」という回答が示される。

顧客向けデータを従業員教育に生かす

 面白いのは、このデータを使って従業員のためのマニュアルに発展させようと考えていることだ(ii)。一の湯はグループで7カ所の宿泊施設を擁している。旅館ごとに異なるローカルルールがある。グループ内でスタッフの異動があった場合にも問題なく対応できるようにするために、対外的に使っているFAQシステムを社内の運用マニュアルや社員の生産性を高めるために発展させようと考えているのだ。

 このように顧客向けのFAQシステムと従業員マニュアルの一体運用は、正直で一貫した顧客対応にも寄与すると考えられる。

 この話をもう少し広い視点で考えると、「オペレーションの透明性」という議論につながる。世界トップクラスの経営大学院として知られる米ハーバードビジネススクールのライアン・ビュエル准教授は、企業は面倒を恐れて業務プロセスを隠したがるが、オペレーションの裏側を明かすことで顧客に商品・サービスの価値を正しく理解させたり、従業員のやる気を高めたりする効果が得られるとしている(iii)

 ビュエル准教授は著書の中で、ハーバード大学の学食で行った事例を紹介している。この食堂は1800年代に作られた古めかしい食堂で、客席と厨房は離れており、双方の様子は見えなかった。そこで、客席と厨房の双方にタブレットを設置するという実験を行った。客は注文した料理が調理されている様子を確認でき、逆に調理担当者は顧客が待っている様子を見ることができるようにした。結果、次のような効果が得られたという。

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