景況に関するニュース番組で決まって映されるものの一つのが、港で山積みにされているコンテナだ。ありふれた風景に見えるが、その歴史は意外と浅い。コンテナ輸送は1956年、マルコム・マクリーン氏というベンチャースピリット豊かな男によって初めて実現し、後の世界経済の仕組みを変えた。その過程を描いたのがマルク・レビンソン著の『コンテナ物語 世界を変えたのは「箱」の発明だった』である(i)。
『コンテナ物語』には、インターネットやクラウドコンピューティングが起こした影響、そしてAI(人工知能)やゲノムサイエンスが起こそうとしている影響を考える上でヒントになるエピソードがてんこ盛りで紹介されている。
まずコンテナが引き起こした変化は、輸送に関する値崩れにある。アジアから北米向けの運賃を40~60%引き下げた。理由は、荷役コストが激減したからだ。コンテナ化が進むまでは、荷物の積み上げ・積み下ろしは大勢の人手をかけて小さな単位で行われていた。6000キロメートル以上の航海をする場合も、結局は両端の港におけるたかだか30キロメートル程度の距離に輸送コストの半分を要していた。
そのコストが、コンテナ化により60分の1にまで圧縮されたわけだ。輸送コストが劇的に下がったため、生産と消費の場は大きく離れていても問題がなくなった。「世界の工場」として中国が台頭したのも、輸送コストをほぼ無視できるようにしたコンテナ化なくしてはあり得なかっただろう。
本書では、日本に関する逸話も紹介されている。時は折しもベトナム戦争(1955~1975年)の真っただ中。ベトナムには50万人を超える米兵がいた。彼らに対する物資の補給を解決するべく、米国防総省は当時一般的ではなかったコンテナ輸送の利用を開始した。ベトナムや日韓の米軍基地へ米国から大量の物資をコンテナで輸送すると、当然帰りは船が空になる。そこで、帰りの便には日本で急成長していたエレクトロニクス製品を満載して米国市場に持ち帰った。わずか3年足らずで、日本から米国への輸出貨物の3分の1がコンテナ化されたという。
ネットとクラウドがもたらしたものとは
転じて、ITやバイオなどの近年成長著しいテクノロジーはどうだろうか。
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