国内におけるスピード違反による取り締まり件数は年間約150万件で、それに伴って納付される反則金の総額は約620億円に及ぶ(i)(ii)。ドライバーの「交通違反をして反則金を払いたくない」という気持ちに訴え、安全運転を促している。

スウェーデンで行われた安全運転を促す社会実験「スピードカメラ・ロッタリー」。かなり大胆な挑戦の結果から、我々は何を学べるのか(写真/Shutterstock)
スウェーデンで行われた安全運転を促す社会実験「スピードカメラ・ロッタリー」。かなり大胆な挑戦の結果から、我々は何を学べるのか(写真/Shutterstock)

 「ご自身のために安全運転を」。こんな掛け声だけで自動車を運転するドライバーの振る舞いは変わらない。かといって「罰金取るぞ」という恐怖訴求に頼っているばかりでもよいのだろうか。

 そのような思いから生まれた社会実験が、スウェーデンで行われた「スピードカメラ・ロッタリー」だ(iii)。スピードカメラ・ロッタリーは、違反者から徴収した罰金を、安全運転していたドライバーに対して抽選でプレゼントするという試みである。つまり、制限速度で運転していると宝くじの券が自動的に付与されるような仕組みを作ったのだ。

 この仕組みが面白いのは、「違反すると罰金を取られて嫌だ」という違反運転の観点からの“斥力”ではなく、「制限速度内で走っているとよいことがある(かもしれない)」という安全運転への“引力”が生じることである。

ドライバーの走行速度が時速7キロ分低下

 実際、実験中に行われた測定では、平均走行速度が通常時の時速32キロメートルから、時速25キロメートルにまで下がったという。

 スピードカメラ・ロッタリーは、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)が2012年に行った「ファンセオリー(楽しい理論)」というプログラムの一環として行われた。ファンセオリーは、ちょっと楽しくなるような仕組みで交通安全を促すことが目的であった。

 今回は時限的な実験であったが、これが仮に社会実装されたならば、ジャンボ宝くじのように数カ月を一区切りとするフェーズが設定され、各期間内でくじの付与と抽選が行われることになるだろう。仮にあるフェーズで速度違反をしてしまったとしても、再度安全運転を心掛ければ、数カ月後に再び賞金を狙えるようになる。なぜなら、過去の速度違反をとがめることが目的ではなく、明日安全運転をしてくれることが目的だからだ。

 この事例自体は2012年と古いが、信用スコアリングに注目が集まる現在のタイミングで見直す価値はあるだろう。

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