自動車業界の人は最近、自社や業界の脅威として「CASE」を挙げる。CASEとは、「ネットワーク接続(Connected)」「自動運転(Autonomous)」「シェアリング(Share)」「電気自動車(Electronics)」の頭文字を取ったものだ。

自動車会社の人は、よく「CASEが脅威」というフレーズを口にするが…(写真/Shutterstock)
自動車会社の人は、よく「CASEが脅威」というフレーズを口にするが…(写真/Shutterstock)

 自動車業界とは無縁の筆者のような立場からすると、自動車会社の人がよく言う「CASEが脅威」というフレーズ自体に違和感を覚える。自動車業界にとって今、CASEよりも何よりも、「非移動」こそが最大の脅威であると考えるためだ。

 野村総合研究所の桑津浩太郎氏は私の考えと同じだ。「自動車は、人間の移動範囲を劇的に広げることで、人間により自由を与えるもの、『運転は楽しい』ものという認識が北米デトロイトだけでなく、全世界的な自動車メーカー、もしくはカーガイの不文律」。一方で、シリコンバレーなどの情報通信業界の人間は、「運転は時間の無駄」と考える傾向があるのではないか、という考えである(i)

 CASEとは大ざっぱに言えば、「より良い移動手段が出てくるぞ」という枠の中での脅威の話にすぎない。一方、非移動は、「そもそも移動なんて面倒臭い」「自動運転や配送、テレプレゼンスロボットといった話題があるが、そもそもソファに座ったままで済むならそれに越したことはない」といった具合に、移動の枠を壊すような話である。

 非移動を好む人たちに対して、移動は善だという枠の中で働きかけても無駄である。もっと言えば、「非移動は善」と考える事業者こそが敵なのに、敵だと認識し損なう恐れすらある。

 ただ、非移動に対して危機感を明らかにする事業者も出てきている。JR東日本企画はその1社だ。2017年9月にムーブ・デザイン・ラボを設立したが、背景にある問題意識は生活者の非移動にある(ii)。同社が設立の際に発表したプレスリリースで引用した国土交通省による「平成27年度全国都市交通特性調査(速報版)」によれば、生活者の外出行動は以前から減少が進んでいたが、近年その傾向が顕著になりつつあるという。

 また同社が17年に行った調査では、1カ月の平均移動回数は20代が37.3回で、70代の40.8回を下回っていた(iii)。「家にいるのが好き」「外出しなくていいならなるべく家にいたい」と答える割合は若い層ほど高い。

 似た構図の議論は、損害保険業界にもある。英国人ジャーナリストは、保険業界の変化を「小切手おじさんから、ヘリコプターママへ」と評した(iv)。「小切手おじさん」とは、「不慮の事態が起きたとき、それを慰めるべく小切手を渡す」従来の保険会社の役回りを表している。

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