ダグ・スティーブンス氏の書籍「小売再生――リアル店舗はメディアになる」では、小売店舗が受難の時代に活路を見いだそうとするさまざまな例が紹介されている。中でも筆者が度肝を抜かれたのは、ドイツの老舗アウトドアショップ「グローブトロッター」である。

ドイツの老舗アウトドアショップ「グローブトロッター」の店舗には驚きの工夫がある(写真/Shutterstock)
ドイツの老舗アウトドアショップ「グローブトロッター」の店舗には驚きの工夫がある(写真/Shutterstock)

 グローブトロッターの店舗では、アウトドア用品を数多く取り扱っている。書籍「小売再生――リアル店舗はメディアになる」によると、実物のカヌーを試せる大型プールや、購入したダウンジャケットが寒冷地で本当に役立つのか確認できる極地低温室および防風実験室などが用意されているのだ(i)(ii)(iii)。ダグ・スティーブンス氏の表現を借りれば「さながらアウトドア愛好家のためのアミューズメントパークのようなたたずまい」となっている。

 店に行かなくてもほとんどの買い物がオンラインで済んでしまうご時世に、店舗ならではの価値とはいったい何なのか。グローブトロッターの事例は、店舗に行くこと自体が目的となる体験を提供するものだ。オンラインで情報を見るだけでもなければ、実際に大自然へ飛び出すわけでもない。その中間にある体験をうまくもたらしていると言えよう。

 この取り組みは、例えるなら巧みな“残尿感”を演出した設計だと言えないだろうか。残尿感とは、以前筆者がモデレーターを務めたVR(仮想現実)と観光に関するパネルディスカッションで、100%満足させずに余白を残すような概念について示した考え方だ(iv)。

特別な空気感を醸成している

 そのパネルディスカッョンでは、VRコンテンツで観光客を呼び込もうとするパネリストのある話が印象的だった。“見る”観光の誘因材料は写真で十分であり、“体験”の予告編なら動画で十分だ。しかし参加・交流が観光の主体となる場合には、VRでないと誘因材料にはならないというものだ。ただ、観光地の情報だけを見て満足してしまったら、わざわざ観光地には行ってくれない。参加型観光への関心を高めつつ満足し切ることがないようにするには、“残尿感”が必要になるという議論になった。

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