ネット通販の拡大によって、客が店舗に来なくなった時代の顧客接点とは──。この多くの企業が抱える悩みを解決するヒントが、大手家具販売のイケアによる家事代行の米タスクラビットの買収(i)にある。

(c)Tanasan Sungkaew / Shutterstock.com
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 タスクラビットは、ちょっとした家事をお手ごろ価格で代行する事業者だ。重い家具の移動、壁の塗り替え、高い所にある照明の交換などを手伝う。さまざまなお手伝いの中でも、特に多く依頼される仕事がイケアの家具の組み立てだ。

 「家具を買うにしても2週間も待っていられず今日欲しい。かと言って自分で組み立てるのは面倒くさい」という人がタスクラビットに家具の組み立てを依頼する。もともとはイケアと提携していたわけでもなかったが、自然発生的にそのような取引が増えた。そして結果的にイケアによって買収された。

 イケアにとってのタスクラビット買収は、組み立てが面倒な客への手助けとサービス収入をもたらす。しかし、本当にそれだけだろうか。

 同じ頃、イケアはネット通販の強化にも取り組んでいた。1943年に開業したイケアは郊外型大型店舗で実際の家具を見てから購入する、という顧客接点を守ってきた。しかし、デジタルネーティブが増えた結果、いよいよ来店者が減少。2015年には米独英でのネット通販を開始、18年には自社オンラインにとどまらず、米アマゾン・ドット・コム、中国アリババなど、大手ネット通販への出店検討が報じられた(ii)

 しかし、「買い物客を車で来店させ、買った家具を自分で組み立ててもらう、という事業の成功モデルに手を加えることへの社内の抵抗は大きかった」と言う。それはそうだろう。

 自社が完全にコントロールできる店舗を販路としていた時には、カップルで来たのか、家族連れで来たのか、商品を見比べたときに常に競り負けているのは何なのか、どういう商品を組み合わせどのようなライフスタイルを訴求すると売れるのかという試行錯誤が可能だったが、ネット通販ではそうはいかない。ましてやアマゾン、アリババ経由で売ることは一時的には腹が膨れても、最終的には顧客接点を失う“毒まんじゅう”になりかねない。

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