デジタル変革時代に備えるべき相手は、研究し尽くした同業種ではなく、異業種にいる「未見の敵」。本連載は国内外の多様なデジタル変革事例を調査する野村総合研究所の鈴木良介氏が、未見の敵への備えのヒントになる事例を紹介していく。第1回は小学校に寄贈した洗濯機が意外な効果を発揮した例だ。

(c)Pressmaster/Shutterstock
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 家電メーカーの米ワールプールは、米国の公立小学校に業務用の洗濯乾燥機(以下、洗濯機)を寄贈している(i)。なぜ、児童書でもジャングルジムでもなく、洗濯機なのか。洗濯機こそ、小学校が抱える大きな課題である不登校を解決する切り札になるからだ。

 ワールプールが根拠とした研究によれば、不登校に直結するきっかけとして「衣服の汚れ」がある。貧困や育児放棄など、元をたどればさまざまな事情があるが、直接的には「服が汚れているのが嫌で学校に行きたくない」となる児童が多い。そこに目をつけたワールプールは、不登校問題を解決するべく、売るほど保有している洗濯機を寄贈したのである。

 学校に置かれた洗濯機はもちろん無償で使える。利用時に学生証をかざすと、ネットワーク経由で誰がいつ利用したのかというデータが集められる。利用データと出欠データを突き合わせることで、年間15日以上欠席する不登校傾向にあった児童のうち、洗濯機を使った者の86%に出席状況の改善が確認できた。

 コネクテッド洗濯機からのデータが、コインランドリー経営者向けの営業ツールとして使われていることはよく知られるが(ii)、それとは一味違うデータ活用をしている。衣類の清潔を維持するための洗濯が衛生・健康に資するだけでなく、人間の尊厳を取り戻すためにも有用であることがデータによって示されたのだ。IoT関連でよく聞かれる「つないで、で、どうすんの?」という質問に対しても、担当者は「子どもの尊厳を守ることができる」と胸を張るだろう。

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