広告キャンペーンでクリエイティブ(広告の成果物、バナー広告など)を作ったものの、十分な成果が出ない。そんなときこそ、マーケターとしての真価が求められる時だ。見る角度を変えれば、劇的に効果を高められる可能性がある。デジタルマーケティングの専門家、菅原健一氏がその手法を解説する。
この10年で広告業界は一変しました。ネットやスマートフォンの浸透でネットメディアが広がり、広告を掲載する枠が増大しました。その広告枠を管理する仕組みが生まれ、金融のシステムトレードとほぼ同様、あるいはそれ以上の複雑さで、リアルタイムに広告枠が取引されるようになりました。アドテクノロジーの発展です。
こうした進歩は歓迎すべきものでありますが、一方でネット広告業界には歪みが広がっています。本当に効果があるのか疑問符が付くサプリメントが大量生産され、広告の拡散を請け負うアフィリエイターの手に委ねられ、ネット広告が大量に生成される。皆さんも、ダイエットに成功したモデルや芸能人がオススメをしたことになっている(実際は無断で番組などのキャプチャー画面を使用している)サプリメントのネット広告をご覧になったことがあるかもしれません。
ネット広告が直面している危機の核心は、このように健全とは言えない存在とまともに活動している企業が、同じ土俵で広告の入札をしなければならないところにあります。数年前に、複数のアドネットワークや広告プラットフォーム上の入札単価を独自に調査したことがあります。普通の広告主と不健全な広告主の入札単価を比較してみると、なんと2倍も違っていました。
ユーザーの多様化に好機あり
同じ土俵の上で広告が表示されたとしても、それは不健全な広告による高単価な入札に競り勝った証しであり、喜んでもいられないのです。何もしなければ、入札単価を上げて対抗するしかありません。
そうした状況下で、デジタル広告が正しく価値を生み出す源となるのは、クリエイティブ(広告の制作物、バナー広告など)の力です。正攻法ではありますが、我々マーケターにとっては、不健全なネット広告に勝る存在感とインパクトを持つクリエイティブを生み出すしかありません。
ここ10年でユーザーも大きく変化しています。スマホの登場とメディアの変化によって、ユーザーの趣味嗜好は大きく多様化したのです。好きなアイドルも、好きな音楽も、隣の友達や同僚とは異なります。放課後や仕事後のライフスタイルも変化しています。それぞれの背景からその商品を購入する理由は異なるのです。ここに、クリエイティブを試行錯誤することでパフォーマンスを改善し、入札単価の暴騰を防ぐチャンスが眠っています。
クリエイティブは最低5~10本
では具体的にどうクリエイティブを作ればいいのでしょうか。
まずは簡単な質問です。あなたの会社のキャンペーンで、クリエイティブはいくつ作っていますか?1つ? それはテレビCMを転用しただけでしょう。3つ? それでは消費者はすぐ飽きてしまい、1~7日の間にパフォーマンスが悪化していきます。
ここではクリエイティブを5~10種類は制作したとしましょう。ではその中で、一番効果が大きかったクリエイティブと小さかったクリエイティブのパフォーマンスの差はどれくらいありましたか? 大抵の企業は1~3倍です。もしかしたらタレントの表情の違いだけでテストをしたのかもしれませんし、コピーを少し変えただけかもしれませんね。
もしあなたのキャンペーンの結果が1~3倍の差しか生んでいないのであれば、クリエイティブのテストが未完成のままです。複数のクリエイティブを作り、パフォーマンスの差をさらに広げていく必要があります。
とある音楽ストリーミングサービスの広告を任されていた時の話です。当初のクリエイティブテストで良い悪いの差をCPI(インストール単価)で見ると、500~750円と1.5倍の差しかありませんでした。ここからクリエイティブワークショップを行い、ターゲット、訴求軸(機能か、情緒か、そのバリエーション)を複数試しました。その結果、幅は200~1000円まで広がり、効果の差は5倍になりました。
CPIの1000円となっていたクリエイティブは長く出し続ける必要はないのですが、何がダメだったか(色なのか、訴求方法なのか、ターゲットなのか)をメモしてチームにフィードバックしました。CPIが低くても、何がダメかを知るための学びにつながるのです。それぞれの差を明確に洗い出し、また次の策を見つけるという行為を繰り返しました。その結果として、100個のクリエイティブを作ることになりました。
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