デジタル時代における「産業のコメ」はデータと言われる。ネット広告でも、配信先の消費者を絞り込むターゲティングのためには、データ活用が不可欠となる。有用なデータをどのように集め、どう活用していくべきなのか。アドテクノロジーやデジタルマーケティングの専門家である菅原健一氏が解説する。

「社内のデータは宝の山だから活用したい」と考える人は多いが、そこに落とし穴がある。(c)Shutterstock
「社内のデータは宝の山だから活用したい」と考える人は多いが、そこに落とし穴がある。(c)Shutterstock

 企業はデータで富を生み出せるのかーー。

 答えはYESです。私的なエピソードではありますが、僕は過去に年商数億円のアドテクノロジー企業の役員をしていました。そのときに多くの広告系の大企業から買収のお話をいただきました。売却をする判断で最も重視したのは、売却後も会社が成長できるかということです。

 買収後も継続して成長するには、アドテクノロジーの力を生かすためのデータが必要です。つまり、買収先の企業が多くのデータを保有しているかが最大のポイントでした。そして、1番豊かなデータを持っている会社に売却を決めました。売却後も3年間役員を務めましたが、その期間に売り上げは数百億円となりました。未上場で具体的な数字は言えませんが、控えめに言っても100倍以上です。

 もちろん買収する会社の掲げる成長戦略、社員の活力、買収する企業側への理解と資源の提供など成功の要因はいくつもありますが、欠かせなかったのは「データ」の存在でした。

「道具の使いこなし」で富を生み出す

 では、データが生み出す効果をいくつかご紹介します。例えばテニスやゴルフを上手になりたいなら、ラケットやクラブなどの道具に着目するのか、フォームなど構えや動作を改善して「どのように打つのか(道具を扱うか)」に着目するかで、その成果は変わってきます。「データ」もそうです。道具の改善に着目するのか、それをどう扱うのかに着目するかで「データ」というものの捉え方が変わります。

 僕が構築したのは道具として、企業が広告を出す際に、正しくターゲティングができる広告のプラットフォームでした。今でもグーグルでさえ、ターゲティング広告を配信するときに使う年齢や性別のデータは「推定」です。過去読んでいる記事の内容を見て、この人は女性向けの記事を見ているから女性であろう、年齢の上の人が使うコスメのページを見ているから50代くらいだろう、とあくまで推測をし、ターゲティングデータとして活用しています。

 しかし、FacebookなどのSNSでは、年齢や性別の他、趣味でさえユーザーが自分で正しいものを入れます。お友達に嘘をつく必要もないので正しいプロフィルが作成されるのです。この点に着目し、企業が正しいデータを活用できる仕組みを提供していました。

 道具がそろえば、あとはどう活用するかです。例えば、女性向けの化粧品会社は興味の対象などで細かくターゲティングをするよりも、男性を確実に省くことができれば、コストは半分になり、その分の広告を追加で出すことで2倍の効果が得られます。無駄のない広告配信ができたことで、多くの企業に多くの広告費を投じてもらうことにつながりました。

 スポーツで高価な良い道具を購入したら、あとは言い訳できませんので、腰を据えて練習をするしかありません。それと同様にデータ活用でも、優れたアドテクノロジーの道具を導入しただけでは意味がありません。担当者の「勘」で配信する広告から、データで意思決定する組織へ変わっていく必要があります。そのためには、ターゲティングの道具として使うのみならず、広告主の企業がデータを分析し、意思決定の質と量を変化させる必要があります。

 これをデータ・ドリブン・マーケティングと呼びます。

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