ネット広告の技術が急激に進歩したことを背景に、不健全な広告やメディアが台頭している。このままでは広告市場は危機に陥る。ネット広告に関わるビジネスパーソンは今何を知り、健全化の道をどう探るか。アドテクノロジーやデジタルマーケティングの専門家、菅原健一氏が解説する。

アドテクノロジーの進化で、誰もがネット広告でお金をもうけることができるようになった一方、不健全な広告やメディアが広がっている(c)optimarc/Shutterstock
アドテクノロジーの進化で、誰もがネット広告でお金をもうけることができるようになった一方、不健全な広告やメディアが広がっている(c)optimarc/Shutterstock

 「インターネット広告はもうダメかもしれない」

 この連載を読んでいる方の中には、若手の方や、デジタルマーケティングの世界に入ってきたばかりの方もいることでしょう。新しい世界で、さてこれから頑張ろうという時に残念なお知らせではありますが、今のネット広告は世界的に詐欺や不正の温床となっています。もはや壊滅寸前の状態に足を踏み入れつつあります。

 著作権を無視して広告ビジネスで稼ぐ違法メディアや、広告詐欺を総称する「アドフラウド」。これらが新聞やテレビで報じられているのを、見た人も多いはずです。

 今すぐネット広告の健全化に向け、これを読む若手の皆さんをはじめ、広告主/代理店/業界団体など業界関係者全員が力を合わせ、健全化の道を探らない限り、ネット広告がダメになるのを止められません。

 生活者が時間を投下する時間の指標を見ると、スマホを中心とするインターネットメディアの利用がどんどん伸びています。それに合わせるように、ネット広告の広告費もどんどん伸びています。それにも関わらず、テレビCMを出しているようなナショナルクライアント(大手企業)のネットでの広告出稿は、利用時間ほど伸びていません。

 一方で、テレビには広告出稿できないような、目を疑う商品や表現がネットの広告にはあふれており、その比率は伸びているのです。この状況の中で「所詮ネット広告なんてアンダーグラウンドなものだろう」と言われても我々は反論できないでしょう。

 この連載ではネット広告業に従事する皆さん、そしてネット広告へ出稿する企業の皆さんに今起きていることの危機感をお伝えしたく始めることとしました。デジタルマーケティングのこれからの担い手に向けて、業界の未来へ必要な取り組みやここで働く我々に必要な素質についてお伝えします。

 今ネット広告は、テレビが生まれテレビ広告が日本の広告費を支えるようになったあの頃と同様の輝きを取り戻すために、新たな発想や発明、技術革新の力で健全化された市場にしなければならないのです。

インターネット広告の成長と苦悩

 従来の4マス広告(テレビ・新聞・雑誌・ラジオ)と、屋外広告や交通広告などのプロモーションメディア広告、そしてネット広告が加わり、およそ6兆円という大きな広告の市場があります。ここ10年以上ネット広告が大きく伸び続けていますが、他は横ばい、もしくはマイナス成長です。ネット広告市場は年間1.5兆円で、テレビの2兆円にまもなく迫ろうとしています。

電通による調査「日本の広告費」より。ここ数年は約2兆円で横ばいのテレビ広告に対し、ネット広告は急激に規模を拡大している
電通による調査「日本の広告費」より。ここ数年は約2兆円で横ばいのテレビ広告に対し、ネット広告は急激に規模を拡大している

 テレビ広告というのは番組表をイメージしてもらうと分かる通り、番組表の中にある「有限の土地」を販売するビジネスです。土地の数が増えることがないため、広告の販売数も増えることはなく、この10年ずっと2兆円程度を推移しています。一方で、時間やチャンネルの制限がないネット広告の場合は、番組表などはありません。土地に当たるメディアと広告を出せる場所(広告枠)は、事実上無限に増やせます。

 誰でも自由に土地(メディアと広告枠)を生み出せるので、もうけたい人が誰でも、そして安易に参入してきます。販売代理店についても同様です。テレビでは数少ない大手代理店が広告枠を企業に販売していましたが、ネット広告は比較的容易に参入できます。

 ネット上では、誰でもメディアにも代理店にも広告主にもなれるわけです。それがネット広告が日本だけではなく、世界中で成長した理由ですが、一方で不正や詐欺、悪意ある人の参入を可能としてしまったのです。

 全体では年間6兆円の広告費ではあるものの、インターネット広告市場の1.5兆円を生み出しているのは、従来の参加者(広告主、代理店、メディア)ではなく、ネット企業を中心とする新規の参加者です。従来の参加者は、ネット広告に手を出すことができず、事実上の膠着状態です。

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