トヨタ自動車の「変革の現場」を追うノンフィクション連載。第34回も部品輸送のカイゼンに関わる物流会社のカリツー、さらにサプライヤーの林テレンプを訪ねた。筆者はそこで改めて感じた。カイゼンの現場はいつも地味だ。しかし、しっかり目を凝らすと、学ぶことがいくつもある、と。
トヨタの物流カイゼンチームのおかげでカリツーが助かったことは、他にもある。
たとえば、以前ならサプライヤーが「今日の午前中に前日と同じだけ部品を出します」と伝えた際、カリツーが「午前何時ですか? 前日と同じ量とはたとえば何立方メートルですか?」と聞いたとする。カネを払っているサプライヤーのなかには「うるさいな。午前と言ったら午前だ。きのうと同じ量と言えば同じだ」と答える人間も少なからずいた。
しかし、トヨタが「部品は午前何時何分に出庫できますか?」と訊ねたら、「うるさいな。午前中には間に合わせる」とは答えられない。正確な時間に正確な量を受け取って運ぶことができる。
安全靴、ヘルメット、ゴーグルは自前で
ただ、サプライヤー、物流会社と一緒にカイゼンする場合、トヨタの人間が気をつけなくてはならないことがある。それは命令口調で高圧的に指示しないことだ。大企業でもあるし、部品を買っている側だからといって、大きな態度でカイゼンを要求したら、誰も本気で協力しようとは思わない。
物流カイゼンに取り組む生産調査部長の尾上恭吾(現・生産・物流領域長)たちが気をつけているのは、トヨタという大企業の威を借りることではない。ひとりの人間としてサプライヤー、物流会社とつきあっていかなくてはならない。もし、それをわきまえていなかったら、トヨタ生産方式を広めることはできない。
見ていると、部長の一柳尚成をはじめとする物流管理部の人間は、スーツを着て現場を訪ねることはない。作業服姿で、安全靴、ヘルメット、ゴーグルなどは自前で用意していく。訪れる会社が出してくれたペットボトルのお茶は飲むけれど、そこの会社の安全靴やヘルメットを使うことはない。余計な気を遣わせないよう配慮をしている。現場でふんぞり返って、人を顎で使うような風情は見せない。過去にはそういった人間もいたかもしれないが、淘汰されたのだろう。彼らはトラックドライバーに声をかけ、バックする時に誘導したりもする。
わたしもマスコミのひとりとしてトヨタに限らず、工場現場を何度となく訪ねたことがある。マスコミの人間が工場を訪れる時、自前の安全靴やヘルメットを用意することはない。はからずも「自分はお客さんだ」と思い込んでいる。わたしも気づかなかったけれど、きっと、エラソーな態度を取っているのだろう。
しかし、カイゼンチームはトヨタ生産方式を体系化した大野耐一以来、「絶対に協力会社の人間に高圧的に振る舞うな」と教育されているから、どこへいっても腰を低くしている。
カリツーの中継地(デポ)から帰る時、別れ際に小野内はため息をついた。
「カイゼンが進んだことはいいのですが、なかなか解決できない、大きな問題はトラックの運転手がほんとに足りないことです。僕らは賃金を見直してはいますけれども、それでもなかなか見つかりません。今、いる人たちに辞めないでもらっている状態です。ドライバーの有効求人倍率は3.0を超えています。ひとりのドライバーを3社以上が争う。ここをなんとかしないと、もう荷物を扱うことはできません」
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