トヨタ自動車の「変革の現場」を追うノンフィクション連載。第32回は、サプライヤーから工場まで部品を運ぶ「調達物流」で実行された2つのカイゼンを紹介する。最先端のAI(人工知能)や最新鋭のメカは登場しない。現場の知恵から生み出された小さな「くふう」が搬送効率を大幅に向上させた。
部品の調達物流に関して、わたしが見に行ったトヨタ自動車九州の例でいえば、部品を納入する協力企業がそれぞれトラックを仕立てていたのを、トヨタが輸送の元請けとなって部品を集荷する「ミルクラン」に変えたことで、かなりの変化があった。
積載率は19パーセント上がって、1台のトラックあたり83パーセントになった。ドライバーの走行距離も1日あたり12パーセント減った。そうして、協力会社からトヨタ自動車九州の宮田工場まで届くリードタイムも2~6時間は減っている。
こうした成果が上がったのは単にミルクランの採用だけではない。現場に行ってみると、実に細かい点までカイゼンしている。
荷物の「上面」を揃える
たとえば、カイゼン後のトラックの荷姿を見ると、荷物の上面がきれいに揃っている。各協力企業からそれぞれ運ばれてきた部品入りのケースを積み込んだにもかかわらず、荷物の上面は凸凹が少ない。
きちんと揃っていればトラックが横揺れしたり、道路の陥没した穴にタイヤがはまり込んでも、荷物が崩れることはない。部品が傷つくこともない。しかも、1台や2台ではなく、ミルクランに参加しているウイングトラック(側面の扉が開くトラック)の扉を開けてもらうと、どれも「上面揃い」になっている。
わたしは最初、よほど神経質なドライバーが自分で荷物を積み直したものとばかり思った。そこで聞いてみた。
「これ、積み込む時にドライバーが自分で調整するのですか?」
すると、物流管理部の部長、一柳尚成はにやっと笑ってから首を振った。
「いいえ、各協力会社に部品を発注する時、荷姿が上面揃いになるようにしているのです」
つまり、ミルクランで部品を集荷に行く時、フォークリフトで積んだ後の部品の量がどれくらいになるかを事前に計算して、しかも、各トラックのなかの荷姿まで考えて、ラインで使う部品の量を発注している。できないことではないのだが、細かい調整が必要だからやりたくない仕事だ。そうして、荷物の上面が揃う発注ができるまでに1年近くかかったという。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。