トヨタ自動車の「変革の現場」を追うノンフィクション連載第31回。サプライヤーから工場まで部品を運ぶ「調達物流」のカイゼンに取り組むトヨタは、集荷方式の大転換を進めているが、苦戦が続く。目指す「ジャスト・イン・タイム」の前に立ちはだかる壁に、どう対処するのか。
サプライヤーから工場まで部品を運ぶ「調達物流」のカイゼン。サプライヤーがそれぞれトラックを仕立て、トヨタに指定された時間に工場まで運んでいた「軒先渡し」から、トヨタが輸送の元請けになり、部品を集めるルートを指定する「ミルクラン」への大転換を推し進めている。プロジェクトを率いる生産調査部長の尾上恭吾(現・生産・物流領域長)は、取り組みの経緯を説明しながら、その道の険しさを口にした。
みんなが喜ぶはずなのに
「2年前から九州で調達物流のカイゼンを始めているのに、3分の1の仕入れ先さんしかミルクランに参加していないのが現状です。それには理由があります。
これまで仕入れ先の皆さんは自分で各輸送会社に物流費用を払っていた。その分をまとめてトヨタが払うようにして、各社の部品をトヨタがまとめて輸送し、各社に物流費用を請求することにしました。ルートも効率的にして、積載量も増えるから、本来はみんなが喜ぶはずなんです。ところが、物流費用というのは決して理屈通りに決まっているわけではないんですよ。
『トヨタにお願いしたほうが安くなる』仕入れ先は賛同してくれます。しかし、『いや、今手配している昔からのつきあいの物流会社に頼んだほうが安いんだ』という方たちもいる。そういう人たちはミルクランになかなか入ってくれません。物流業者は得意先とトータルでつきあっているでしょう。ですから破格の値段で運んでいる仕事もあるんですよ」
「じゃあ、尾上さんはどうするんですか?」と尋ねると、「そこなんですよ」と彼は苦渋の色を浮かべた。
「仕入れ先さんにも物流業者の方たちにも納得していただくようなプランを出す。幸いというか、ドライバー不足ということもあり、ドライバーの環境をよくしていますよという話をすれば、乗ってきてくださるところもあります」
トヨタでは、ある部品をどこから買っても、どこに届けても同じ価格という「一物一価」が基本であり、九州の調達物流カイゼンでもそれを守っているが、その見直しも視野に入れる。
「一物一価を変えることはサプライヤーにとっても大変なことですが、部品と物流の値段を切り分け、トヨタの責任で運ぶことも考えています」
カイゼンを九州と東北で始めたのは、そこが手を付けやすいからだ。トヨタ本社がある豊田市などの東海地区だと「うちは昔から、A社の部品を運んでいた」と主張する物流会社がいくつもある。そういうところは効率的ルートになってしまうと仕事が減る。それではなかなか納得しないだろう。
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