トヨタ自動車の「変革の現場」を追うノンフィクション連載。第28回は「完成車物流」の現場へ。工場で完成した車は屋外でキャリアカーに載せられるが、炎天下、車内温度は70度にもなる。訪ねた工場では「大屋根」が設置されていたが、ここにトヨタ式カイゼンの本質が映し出されている。
「完成車物流」のうち、国内向けは工場を出てから顧客の家までの物流だ。ただ、工場を出た新車がそのまま客の家の駐車場に納まるわけではない。工場を出た新車は各販売店の新車点検センターに運ばれていく。新車点検センターまでは4台もしくは6台積みのキャリアカーで運搬する。センターではオプションを付けたり、新車点検をした後、販売店の営業スタッフが客の家まで運転していき、納車が完了する。
モーダルシフトが進んでもキャリアカーは不可欠
以前、わたしは「自動運転の時代になったら、工場から新車は自走して客の家まで行く」という趣旨のことを書いたけれど、そうはならない。製造されたすべての新車が1台ずつ、トヨタの本拠地である愛知県豊田市や九州、東北の工場から国内各地へ自走して行くとなると、排出されるCO2(二酸化炭素)の量が膨大になってしまう。
トヨタに限らず自動車各社は現在、CO2排出量を抑制するため、車の運送を船や鉄道でまとめて行う方式にシフトしている。いわゆるモーダルシフトである。まとめて大量に運ぶ方がCO2排出量が少なくて済むからだ。ただし、モーダルシフトが進んでも、工場から港や鉄道の駅まで、また港や駅から新車点検センターまではキャリアカーで運搬するしかない。どこまでいっても、キャリアカーは必要だ。
つまり、国内向け物流のカイゼンは工場から販売店までのルートを考えて、効率化すること。この場合、解決しなければならないのは、ルートを効率化して、キャリアカーを運転するドライバーの労働時間を減らすことだ。将来、キャリアカーの自動運転も可能になるだろうが、まだ先の話。現状は、10人で運搬していたのなら、9人で同じ台数の車を運搬できるように効率化する。生産性向上でもあるし、また、不足しているドライバーを他の地区へ回すことができるからだ。
一方、海外向けの物流でも工場から港までキャリアカーが必要だ。港からは自動車専用船で北米、アジアなどへ運んでいく。
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