トヨタ自動車の「変革の現場」を追うノンフィクション連載。第27回から「物流カイゼン」に迫る。「部品を生産工場に運ぶ」「工場から完成車を購入者に届ける」「補修部品を販売店に運ぶ」。トヨタにおける「3つの物流」の費用は年1兆円に上る。そのカイゼンは重要課題であり、変革の最前線だ。

物流カイゼンの現場、トヨタ自動車九州の宮田工場へ。完成車がキャリアカーに積み込まれ、販売拠点に向けて運ばれていく
物流カイゼンの現場、トヨタ自動車九州の宮田工場へ。完成車がキャリアカーに積み込まれ、販売拠点に向けて運ばれていく

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 トヨタ生産方式のカイゼンで、基本とされているのは物流のカイゼンだ。1982年、トヨタ自動車工業とトヨタ自動車販売の「工販合併」が行われた年、現・相談役の張富士夫は物流をカイゼンするリーダーに指名された。当時、会長だった豊田英二は張を呼んで、ひとこと伝えた。

 「張くん、我々も昭和20年代に物流のカイゼンをやったんだ。トヨタ『生産』方式と言っているけれど、基本は物流カイゼンなんだ」

 以来、トヨタではつねに部品や車を運ぶ部門の生産性向上に努めている。だが、2016年に九州地区から始まったそれはこれまででも、もっとも大きな規模であり、かつまた人手をかけたものだ。

 まずトヨタにおける物流は3つに分けられる。ひとつは部品が生産工場に入ってくるまで。これは「調達物流」と呼ばれる。次は生産工場から出て行った車が、購入した客の手元に届くまでの「完成車物流」。3番目は「サービスパーツ物流」。サービスパーツとは車が壊れた時などのための補修用部品で、それを販売店まで運ぶ物流である。

 2019年現在、この3つを合わせた物流費はおよそ1兆円にもなる。年間の生産台数が1000万台の企業規模になると、これほど大きな金額がトヨタから社外に出て行くわけだ。そして、この数字はトヨタの開発費(年1兆800億円)とほぼ等しい。さらに言えば、物流大手の佐川ホールディングスの年間売上高(1兆450億円)と同じくらいでもある(同業筆頭のヤマト運輸は1兆4000億円)。佐川ホールディングスの扱い貨物の数は年間約13億2600万個で従業員数は約5万人。トヨタがかかわる物流はこの規模の貨物数、人数に匹敵すると思っていい。

 こうした大きな物流のカイゼンを「やれ」と言われたのは当時、生産調査部長だった尾上恭吾(現・生産・物流領域長)だ。彼は生産現場、協力工場のカイゼンに奔走するだけでなく、巨大物流機構を効率化しての生産性向上をまかされた。

3パーセントのカイゼンが20万台の販売に相当

 「ええ、物流は非常に大きな問題です。たとえば全体の3パーセントをカイゼンするだけで300億円の利益が出る。これだけの金額を、車を売って儲けろと言われたら、いったい何十万台売ればいいのか……。それを考えると物流経費の低減は絶対にやらなきゃいけない課題なんです」

 車を1台、売った場合の利益はだいたい、6パーセントから7パーセントとされる。200万円の車の7パーセントは14万円。300億円を稼ぐには20万台以上、売らなければならない。販売を伸ばすより、人手をかけても物流カイゼンに力を注いだ方が数字はよくなる。

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