トヨタ自動車の「変革の現場」を追うノンフィクション連載。第22回のテーマは「トヨタ生産方式」だ。生産現場から生まれ、今、販売の現場カイゼンにも力を発揮する。トヨタを支える「背骨」だが、世間からの誤解も多い。しかし、この本質を理解しなければ、トヨタの変革は読み解けない。
自動車業界が「生きるか死ぬか」の時代に、トヨタは他業種との連携、コネクティッド、EV(電気自動車)化、自動運転、モビリティサービスへの注力をすすめている。前回(アマゾン、ウーバー… トヨタが“ありえなかった相手”と組むワケ)に記したように、まさに「ありえない組み合わせの相手と組み、トヨタには似合わない仕事をしている」。
もはや、自動車製造だけの会社ではなくなっているのだが、このトヨタの変化について、従来型の自動車専門家、経済評論家たちからの評価は概して不評だ。「トヨタはモノ作りを忘れて自社アピールに余念がない」といった評が生まれている。
「生産」が入ったのは、根本が確立した後
しかし、新しく始まった仕事を見ていくと、背骨にあるのはトヨタ生産方式だ。組織図にも表れている。トヨタ生産方式の英語表記「Toyota Production System」の略称「TPS」を冠するTPS本部を立ち上げて、生産工場だけでなく、販売、物流、システム開発、新しい事業構想にも活用し始めている。
ただし、悲しいことだけれど、トヨタ生産方式とは何かがわかっていなければ、活用されているかどうかがわからないので、はた目から見るとトヨタの変化はわからない。「名古屋の田舎にある昔から閉鎖的な会社が自動車会社にはあるまじきことをしている」といった印象になってしまう。
トヨタに関する新聞、専門誌の報道を見ていくと、新車情報、経営情報、新技術開発に関わる情報、そして人事情報だ。トヨタ生産方式についてはOBが何十冊も本を出しているけれど、それは「ムダの削減」「紙一枚に企画をまとめる」「工場の生産性をあげる」といった目の前のメリットで、トヨタ生産方式の本質からは外れたものだ。専門家でさえも、「トヨタ生産方式とは車を作るための生産分野だけの方式」と誤解している。
しかし、トヨタ生産方式というネーミングに「生産」が入ったのは同方式の根本が確立した後のことだった。当時はトヨタ自工という製造専門の会社だったので、「生産」という言葉を加えたに過ぎない。
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