トヨタ自動車の「変革の現場」を追うノンフィクション連載第20回。トヨタの販売カイゼンは、瞬時に客の要望に応えられる「ジャスト・イン・タイム・サービス」を目指すが、道半ば。著者はトヨタが生き残るために目指すべき姿として、スカンジナビア航空(SAS)の「真実の瞬間」の例を紹介する。

「真実の瞬間」とは、もともと闘牛の用語で「闘牛士がとどめを刺す瞬間」のこと(写真:Shutterstock.com)
「真実の瞬間」とは、もともと闘牛の用語で「闘牛士がとどめを刺す瞬間」のこと(写真:Shutterstock.com)

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 販売店における接客、サービスの分野はこれまで以上にカイゼンを進めていかなくてはならない。トヨタが2018年の秋からすべての販売店で全車種を売るようになったのはサービスカイゼンの前段階だ。どこの販売店も商品が同じものになるわけだから、販売カイゼン、サービスカイゼンをしたところだけが生き残る。しかも、アマゾンをはじめとするネット通販も攻勢をかけてくる。

瞬時に客の要望に応える回答は3つしかない

 当たり前のことだけれど、ユーザーと販売店の担当者が接触する瞬間には自動車会社の経営者は立ち会うことができない。ユーザーにとって、トヨタ、日産、ホンダ、フォルクスワーゲンという会社のイメージを決めるのは経営者ではなく、自分が出会う担当者だ。自動車会社の経営者は自社で雇っているわけではない人間に自社のイメージ、サービス品質を託している。経営者は販売店の前線まで行ってサービスの品質に目を配らなければならない。それこそ、トヨタが重視する「現地現物」ではないのか。

 ユーザーが要望を出す。値引きでもいいし、部品の交換でもいい。多忙の時に「タダで洗車してくれ」と頼まれた場合でもいい。それを受けるのか、断るのか、断ってから代替案を提供するのか、断り方はどうするのか……。それは販売店の担当が瞬時に行わなければならない。

 トヨタが目指す「ジャスト・イン・タイム・サービス」とはつまりはそういうことだ。瞬時に客の要望に応えられる組織になることだ。

 どういったサービス業であれ、「すみません、上司に聞いてきます」を連発したとたんに、客はその店を見限る。トヨタ生産方式の考え方からしても、「上司に聞く」という仕事はムダで何の生産性もない。そして、詳細なマニュアルを準備するのもムダだ。客の要望に対する答えは「受ける」「断る」「代替案を出す」の3つしかない。そのなかで経営者に代わって最前線で接客する人間が瞬時に判断する。

 自動車の販売店でそれがすでに実現しているところは少ないだろう。しかし、他の業界ではすでに実行されている。

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