トヨタ自動車の「変革の現場」を追うノンフィクション連載第13回。販売店カイゼンに取り組む業務改善支援室は、営業支援システム「e-CRB」を開発した。しかし、これを導入すれば直ちに効果が上がるわけではない。必要なのは、セールススタッフの意識改革であり、そこには大きな壁が立ちはだかった。

トヨタが独自開発した販売店支援ツールの基盤には、生産現場を支えるトヨタ生産方式の考え方がある。写真はトヨタ生産方式を体系化した大野耐一氏(写真:廣瀬郁)
トヨタが独自開発した販売店支援ツールの基盤には、生産現場を支えるトヨタ生産方式の考え方がある。写真はトヨタ生産方式を体系化した大野耐一氏(写真:廣瀬郁)

 前回までのあらすじはこちら

 一般的にカーディーラーのセールススタッフがやることは客に連絡をして、会いに行くことだ。もしくは販売店に来てもらって面談して新車を売る。セールススタッフはそれぞれの顧客データを持っていて、そのなかから車検が近づいた客に電話を入れる。なぜ車検が近づいた客に連絡するかと言えば、国内では車を買う人の7割が「車検が来たから」という理由で販売店にやってくるからだ。

「やりやすさ」より「やるべき」を

 トヨタの場合、1店舗にいるセールススタッフの数は平均すると4、5名といったところで、プラス店長がひとり。また、セールススタッフ各自が持っている顧客数は200人前後で、多い人、つまりよく売るセールススタッフになると600人の顧客を持つ者もいる。そして、彼らがひと月に売る台数は平均3台から4台といったところである。

 流通情報改善部の主査、鳥居圭吾はトヨタが開発した販売支援システムe-CRB(evolutionary Customer Relationship Building)の説明を続けた。流通情報改善部とは販売カイゼンに着手した業務改善支援室の後を受けた組織である。

 「一般のセールススタッフのやっていることってこんな感じでしょうか。『今日は北の方に住むお客様と商談があるので、ついでに同じ方面のお客様のところにも顔を出してみる』。こんな感じで1日の活動を効率よく計画するところがセールススタッフの腕の見せ所、だと思います。

 しかし、実際に足で回ってお客様を探している人なんて今の時代はいないと思います。飛び込み営業やあてもなく外回りをやる人はいなくなりました。事務所にいると『外回りしてこい』と言われるから、喫茶店で時間を潰しているというのは昔話です。

 結局は、車検の時期が近づいてきたお客様に、そろそろ購入の予定がないかを電話で聞いている。実際に電話するのを見ていると、分厚いお客様リストを使って、電話しやすいお客様から順に電話している。今回は車検を受けるから新しい車はいいやと言われたら次の人に電話をする。

 なんといっても、新車を売って目標達成しなきゃ店長からわーわー言われますからね。今月のリストにある車検対象のお客様に電話をしてしまったら、来月のリストを先食いする。来月のリストがなくなったらその翌月の人に電話をする。そうやって先行して目標達成しているのが実態なんです」

 e-CRBはそういう実態をやめさせて、1日に電話をする顧客を割り当てる。先食いはさせない。おのずからセールススタッフの1日の活動計画は決まってしまう。

 やりやすい客に電話をするのではなく、やるべき客に電話するよう、画面上に表示してある。先食いしようと思って、翌月、翌々月のリストの客に電話をすることはできないようなシステムだ。そうして毎日の活動計画を完了させることがe-CRBの目的なのである。

 そして、仮に、今日、連絡を取るべき客に連絡をしていない場合は店長からチェックが入る。やるべきことをやっていないのは活動の異常として、画面上に出てくるからだ。そして、今日の分をやってしまったら、その後は何もしなくていい。

 e-CRBの機能を理解すると、その根本はトヨタ生産方式の考え方からきていることがよくわかる。

 それは生産現場にトヨタ生産方式が導入された当時のことを思い起こせばいい。

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