トヨタ自動車の「変革の現場」を追うノンフィクション連載第11回。「ITによる販売カイゼン」を推進するためのシステム開発は、中古車検索にとどまらず、整備や店頭サービスにもその対象を広げた。しかし、システムを稼働させるためのパソコンが足りない。業務改善支援室のメンバーは「自作」を試みるが……。

足りないパソコンは自分たちで作ろう。業務改善支援室のメンバーが作業を進めるが……(写真:Shutterstock.com)
足りないパソコンは自分たちで作ろう。業務改善支援室のメンバーが作業を進めるが……(写真:Shutterstock.com)

 前回までのあらすじはこちら

 販売店のカイゼンは中古車の流通システムだけではない。カイゼンは大きく分けるとふたつの側面がある。

 ひとつは整備工場のカイゼンだ。

 整備工場にはメカニックがいて、車に関するさまざまなサービスを行う。新車ならばオプションの取り付け、新車点検などがある。また、修理に入ってきた車、車検の車などを整備する仕事がある。センターもしくはヤードにある中古車だって納車前には整備と点検があるから整備工場にやってくる。こうした作業については生産工場のラインでやっているのと同じトヨタ生産方式でカイゼンする。整備のリードタイムを短くして客を待たせないということだ。

 もうひとつは販売店の店頭サービスである。

 店頭スペースは客がやってきて、買うか買わないかを検討する場所だ。休みの日には大勢の人であふれるけれど、平日はまずそんなことはない。業務改善支援室のメンバーはセールストークのアドバイスはしない。しかし、セールスの標準作業を決めたり、客がやってくる予約の時間を整理整頓する。それだけで無駄な時間が減り、セールスに充てる時間が増える。

シンプルでフレキシブルで短時間で

 中古車画像検索システムを手がけた藤原靖久(現コネクテッドカンパニー)たちが開発した販売支援システムは整備の生産性向上、顧客の誘致、待ち時間の解消など、いずれにも使えるものだった。システム開発にあたって、藤原は友山(茂樹・現副社長)から釘を刺されたことがある。

 「システム開発はトヨタ生産方式の考え方でやれ」

 つまり、シンプルでフレキシブルでバージョンアップに時間がかからないシステムを開発しろという意味だ。もともと、トヨタ生産方式では標準作業を設定するために、ストップウォッチを手に持った指導員が作業を見つめ直す。作業を要素単位にして、それをシステムに組み込むのは藤原にとっては難しいことではなかった。

 藤原、吉岡輝(現常務理事)とともに働いた現流通情報改善部の主査、鳥居圭吾はこう説明する。

 「私たちが開発してきたシステムの一番の特徴はトヨタ生産方式の思想が織り込んであることです。工数を原単位として着工計画を作成しました。ただ、板金塗装のサービスでは工数のバラつきが大きく原単位の積み上げでは実態と合わなかった。それで私は着工計画をする時に原単位を使わず、現場の経験でだいたいの工数を入力させたのですが、それがわかったらひどく叱られました。着工計画の作成の考え方にはタクトタイム、標準手持ちなどトヨタ生産方式の考え方が織り込まれています。

 また、販売店の店頭に誘致したお客さまを管理するには、当日の誘致対象をなるべく確定し、その数が上下に振れないよう平準化しました。お客さまの数の基準を設定することで異常があったら顕在化し、視える化もしてあります」

 工数、原単位、タクトタイム、標準手待ちといった専門用語がちりばめられているが、要は、販売店の従業員にとっても客にとっても待ち時間が少なくなるように日々のスケジュールを組む予約システムだった。そして、いつもよりも来店客が極端に増えた時にもこのシステムがあれば待ち時間が少なくなるようなくふうがされていた。

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