トヨタ自動車の「変革の現場」を追うノンフィクション連載第5回。「理想の工場」に続いて訪れたのは、中国・深圳(しんせん)の「理想の販売店」広汽トヨタ兆方店だ。ここでは、日本より進んだシステムが稼働していた。顧客の声から見えてきた「サービスの本質」とは。
広汽トヨタの工場、販売本部を見学した後、車で2時間走って、深圳へ行った。深圳は香港から高速鉄道で30分。経済特区として開かれた町で人口は約1250万人。広州よりもなお人口は多く、そして先進的な町だ。深圳では広汽トヨタ兆方店という地域でもっとも新車を売っている販売店を見に行った。
工場とつながる。顧客とつながる
外観と建物のレイアウトは日本の販売店とほぼ同じだ。前面にショールームがあって、新車が並んでいる。奥には修理、洗車を行う作業エリア、つまり整備工場である。兆方店の総経理(社長)は女性の陳浣(ジェミー・チェン)。
「私は広汽トヨタができた時から二人三脚で店のカイゼンに取り組んできました」
カイゼンされた販売店とはおおよそ次のようになる。これは日本でもアメリカでも同じである。
前回述べたSLIM(Sales Logistics Integrated Management)により広汽トヨタの工場と情報でつながっている。客が発注した新車が何日の何時に兆方店に来るかが瞬時にわかる。タイヤ交換、修理サービスにかかる時間が短い。タイヤを載せる台車は最新型で、体に負担がかからない。作業にかかる時間をストップウォッチで計って、標準作業を割り出し、そして、工程を科学的に整理してリードタイムを短くしている。修理、洗車といった実作業はトヨタ生産方式の作業カイゼンと似ているから販売店の仕事にアレンジしやすいともいえる。
販売店の売り上げとは新車の売り上げマージンだけでない。車検の収入、オイル交換、修理といったサービスに関わる収入はバカにならないし、これはアイデアとサービスの実行でいくらでも増えていく。販売店の利益を増やすには、ここに力を入れるしかない。
数々のカイゼンのなかで、「この点は日本よりも中国の方が進んでいる」と感じたのは店内にあるショールームのインテリアと付属の飲食、物販サービスだ。ショールームは空港のラウンジのようなデザインになっており、地元資本のカフェが出店していた。それもスターバックスではなく、ブルーボトルのようなサードウェイブ・コーヒーカフェである。一杯目はタダ。新車を買わなくとも、入ってきた人なら誰でも、一杯目はタダで飲める。6階は顧客、つまりここで車を買った人が立ち寄ることのできるラウンジになっていた。1階よりもさらに高級感あふれるインテリアで、中国の餅茶を販売し、しかも、飲める。餅茶とは円盤型に固めた高級茶である。
「餅茶は人気です」と言っていた。深圳でもカムリを買う人たちは富裕層なのだろう。ラウンジの奥にある別室はレストランだ。そこでは毎日、ランチに4種類から5種類のおかず、スープ、ご飯もしくはチャーハンを出す。カーオーナーは毎日、利用してもいい。味は悪くない。本場の広東料理(深圳も広東省)である。日本の中華料理バイキングなら1800円といったところだろう。
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