これまで、本特集では主に、ダイナミックプライシング(DP)に取り組む事業者の狙いや現状、課題などを分析してきた。しかし、DPを導入した場合、消費者がそれをどう受け止めるのだろうか。ここでは行動経済学をヒントに、DPを消費者の視点から考えてみたい。

 DPに取り組む企業は「AIなどを活用した精緻な需要予測に基づく価格設定は供給側にも消費者にも合理的」と口をそろえる。しかし、数年前にあるビジネスホテルが繁忙期にシングル素泊まりで3万円台まで高騰して「高すぎる」と大きな話題になったこともあった。買い手は本当に納得するのか。

 「消費者が納得するかどうかは『フェア(公平、公正)と感じるかどうか』に尽きる」と、行動経済学が専門の明治大学・友野典男教授は指摘する。

明治大学・友野典男教授
明治大学・友野典男教授

 その考え方の一つを提示したものに、2017年にノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー氏らの調査がある。「金物屋が雪かき用シャベルを15ドルで売っていた。大雪が降った次の朝、この店はシャベルを20ドルに値上げした」。需要が急増して供給がすぐに増えないのであれば、価格が上昇するのは標準的経済学では合理的だ。しかし、一般の人にアンケート調査を行ったところ、「容認できる」が18%、「不公正である」が82%だったという(リチャード・セイラー『行動経済学の逆襲』(早川書房刊)を参照)。

 この調査で分かったことは、ある価格が公正かどうかは「参照点(基準となる点)」に基づいて判断されること。したがって、参照点がどこにあるのかが重要になる。消費者にとっては平常時の価格(雪かき用シャベルなら15ドル)が参照点であって、そこから価格が上昇することは「損失」であるとみなし、かつ“弱みに付け込まれた”という印象から「不公正である」という感覚を生むことになるのだ。

 大雪や地震のような緊急事態に価格を大幅に引き上げることは、企業には短期的な売り上げ増加をもたらすが、顧客からの信頼を失い、長期的には売り上げの減少をもたらす可能性もある。「長期的な視点で顧客を大事にする企業なら、安易な値上げはしない」(友野教授)。その極端な例が、前回の記事で紹介した、DPを利用せずにロイヤルティーの高い顧客を優遇するポリシーを明確にしている東横インだろう。

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