米国ではウーバーなど、ダイナミックプライシング(DP)をビジネスに活用するスタートアップが少なくない。有限なリソースを共有しサービス料金などを引き下げるシェアリングのビジネスであるからだ。これまで難しいと言われてきた流通業でも価格変動制を採用する動きが出てきている。米国での動向を追った。
ライドシェアの米ウーバー・テクノロジーズもDPを当初から導入している。イベントの開催などで顧客の乗車リクエストが集中した際、料金を一気に引き上げて需給の調整を図る。
例えば、サンフランシスコ市から筆者の米国オフィスがあるシリコンバレーの中心地パロアルト市まで、通常50ドル程度の料金が約190ドルと4倍まで跳ね上がったことがある。サンフランシスコ市の中心部から多少離れた場所で、大きなカンファレンスが開催され、終了時にウーバーを呼ぼうとした時のことだった。
料金を引き上げることによって、乗客に対しもう少し時間が経ってから再度リクエストしてもらったり、すいてそうな場所まで歩いてもらったりという意図がある。
もう1つの効果が供給側の調整だ。ウーバーや同業のリフトもそうだが、運転手はドライバー用のアプリを利用している。アプリの地図には、その時点で料金が上がっている場所が示される。
ウーバーでは諸経費を含めて8割がドライバー側に支払われる。前述のように、50ドルの乗車であれば40ドル程度の収入なのが、200ドルであれば160ドル。100ドル以上の収入増となる。そんな高値の場所を目指してドライバーがクルマを動かし、そのエリアの需給を調整するというものだ。
需給よりも価格弾力性に注目するエアビー
一般人のホストが自分の部屋やアパートをシェアリングで貸し出す、米エアビーアンドビーもDPをフルに活用している。周辺の物件の需給の動向を基にAI(人工知能)がホストに最適な価格を提案する。
エアビーは需要とその物件のブロックなど数百種類のデータを考慮して物件の宿泊料金を導き出している。さらに重視するのが「価格弾力性」である。仮にその物件の価格を引き上げたとして、それでも顧客がその物件に泊まる傾向があるかどうかを分析している。そうした場合には、物件周辺でイベントがあるなど何らかの理由が存在するので、強気の料金設定を提案する。
コンサートのチケットや交通機関、ホテルなどの宿泊は、利用日や席数・部屋数に制限があるため、DPで需給を調整しやすい。Webでの販売やサービス提供が主流になったのも、価格を変更しやすくなった理由だ。
一方、流通業では紙の値札が主流のため、DPに取り組むのが難しかった。電子値札も普及しつつあるが、対象の商品点数が多いため、最適価格の計算が難しいという事情もあった。こうした制約がAIの普及で取り払われようとしている。
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