収容人員7万人を超える日産スタジアムで稼働率を高めたい

 横浜FMは、人気チームとの対戦、土日曜開催、好天の予報といった好条件がそろう試合で、実際に売れ行き好調の場合は、チケット価格を値上げすることでチケット収入増を狙う。反対に苦戦が予想され売れ行きが芳しくない試合・席では値下げすることで観戦のハードルを下げ、集客につなげる。

 横浜FMがDPを導入したきっかけは昨夏、海外クラブチームの経営を学ぶべく、北米プロサッカーリーグのニューヨーク・シティFCを視察し、DPの説明を受けたことだった。横浜FMは、7万人超のキャパシティーを持つ日産スタジアムと、約1万5000人のニッパツ三ツ沢競技場という両極端な会場をホームグラウンドとして使用している。

 満席にするのは至難の業の日産スタジアムでいかに観客動員を増やせるか、人気カードではすぐ満席になってしまう三ツ沢競技場で収益を増やす方法はないか──。これが横浜FMの経営課題だった。「試合の人気によって価格を変動させるDPが課題解決の糸口になりそうだと考えた」と横浜マリノス(横浜市港北区)マーケティング本部FRM事業部部長の永井紘氏は振り返る。視察を終えたタイミングで、このDPのシステムを三井物産とヤフー、ぴあが共同出資会社ダイナミックプラス(東京・千代田)を設立して日本に持ち込むとの話を聞きつけ、永井氏が訪ねていったことが早期の導入につながった。

 ダイナミックプラスと連携し、18年8月から一部席種でDPを導入。全席種でのDP導入に踏み切ったのが冒頭の鹿島戦だった。この日、日産スタジアムでは他のイベントが開かれていたため、試合会場はニッパツ三ツ沢競技場が割り当てられていた。自由席が3倍になるなどチケット価格が高騰したのはそのためである。

 鹿島戦は値上げ一辺倒だったが、DPは“不人気試合”でも役割を果たす。10月5日のコンサドーレ札幌戦は、キャパシティーが大きい日産スタジアムで金曜開催、そして雨の予報だった。この試合は、売れ行きの出足が比較的良かった人気のSS席を5100円から6300円に値上げする一方、席数が多く売れ残りやすいバックスタンドの席を値下げしてお得感を出した。値上げと値下げを組み合わせて観客を“誘導”することで、「標準価格のまま販売し続けた場合より、観客数とチケット収入を増やすことができる」(永井氏)。

 DP導入によって観客数、チケット収入はどれくらい増えるものなのか。鹿島戦のように軒並み標準価格の2~3倍に高騰する試合もあれば、値を下げても集客につながりにくい厳しい条件の試合もあるため、増加率はバラつきが大きい。また、DPを導入した場合と導入しない場合を1試合で同時に試すことはできないため、増加率はあくまで推計だ。それを踏まえて導入した試合の成果を平均すると、観客数およびチケット収入は従来型の販売手法と比べて7~8%増加する計算になるという。

 19年シーズンにDPを全面導入することを決めた横浜FM。課題として、上限価格と下限価格の設定がある。「鹿島戦では一時1万円超の推奨価格をシステムが提示する場面もあったが、その通りにはしなかった。また下限については、18年は会員価格を下回らないようにしていた」(永井氏)。

 その試合の収益最大化だけを考えれば、システムの提案に乗ることが正しい判断になるだろう。だが観客の間でDPへのなじみや理解が薄いうちは、高くし過ぎれば反感を買いかねない。また会員向け早割価格を割り込んで売ることが常態化すれば、会員の不満を招くだろう。「総じて値上げするケースの方が多いから、ならば会員になっておこう」という具合に、DP導入が会員増、会員の観戦リピート増につながるかどうか。これが横浜FMにとってDP導入の成否ラインとなりそうだ。

 次回は、横浜FMのDPを導入を担う、ダイナミックプラスの取り組みを詳説する。

(写真提供/横浜マリノス)

ダイナミックプライシングとは
 「ダイナミックプライシング」とは、需給に応じて金額を変動させる価格設定の仕組みのこと。エアラインやホテルなど、需要が集中する時期などを把握しやすい業界では既に一般化している。一方、スポーツ観戦チケットなどは人気カードでも消化試合でも設定価格が変わらず、人気の試合はすぐに売り切れ、不人気の試合は閑古鳥が鳴くケースが目立つ。そこで、需要が高い試合は価格を上げて収益をより確保し、需要が低い場合は値下げすることで集客する取り組みが始まっている。近年は、AI(人工知能)が過去の販売状況や天候など売れ行きを左右するデータを大量に学習して最適価格をはじき出し、大胆に価格を上下させるシステムの導入が加速。これにより、さまざまな業界がダイナミックプライシングの採用に舵(かじ)を切り始めている。