日本で“時価チケット”の普及に挑む企業がある。三井物産とヤフー、ぴあが共同出資するダイナミックプラス(東京・千代田)だ。設立間もないが、Jリーグ、プロ野球、ラグビーとダイナミックプライシングの導入先を急速に増やしている。特集の第2回は、ダイナミックプラスの野望と、“値付け”の舞台裏に迫る。
自由席の価格が3倍に跳ね上がった──。2018年10月、横浜F・マリノス対鹿島アントラーズの一戦は、試合展開以上に、その値付けが話題を呼んだ。チケットの売れ行きや曜日、当日の天候など、さまざまな条件を変数として計算式に落とし込み、“時価”をはじき出した企業がダイナミックプラスだ。
同社は18年6月1日、三井物産が62.6%、ヤフーが34.0%、ぴあが3.4%を出資して設立された。価格を決めるアルゴリズムは、世界最大のチケット販売会社である米チケットマスター(Ticketmaster)も採用する、米ニュースター(Neustar)のシステムを導入。これを日本向けにアレンジして動かしている。
「日本は五輪2回分遅れている」
「最初は自分たちで(アルゴリズムを)作ろうと思ったが、『あるならば買ってしまえ』と。方針を変えて、時間を買った」。三井物産から出向し、ダイナミックプラスの社長を務める平田英人氏は、こう振り返る。
需給などに連動し、きめ細かく価格を変えるダイナミックプライシング(DP)は、米国ではスポーツやイベント、食品スーパーなど幅広く浸透。一方、平田氏の言葉を借りれば、「日本ではオリンピック2回分遅れている」。スポーツをはじめ、依然として同じ料金体系の「単一価格」が定着しているのが現状だ。
平田氏は、ここにビジネスチャンスがあると読んだ。新事業のアイデアを提案できる三井物産の社内制度に、同僚の安原樹志郎氏(現ダイナミックプラス取締役営業戦略部長)と共に応募。16年夏に晴れて採用され、「日本版ダイナミックプライシング」を事業化する試みが動き出した。平田氏と安原氏はすぐさま、米国に飛び、ニュースターの創業者と面会した。
「もともと実績があるアルゴリズムを使うほうが、我々がゼロから作るよりは早い。もちろん、米国のアルゴリズムをそのまま日本に持ってきても使えない。だから、1年間かけてトライアンドエラーを繰り返した」(平田氏)。
17年、三井物産はヤフーと連携して福岡ソフトバンクホークスと、ぴあと連携して東京ヤクルトスワローズと、それぞれ需要に応じてチケット価格を変動させる実証実験を始めた。結果的に、この実験をきっかけに、3社合同でダイナミックプラスが誕生した。
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