創造性を生かす仕組みづくりに取り組んできたパナソニックから、新規事業が続々と登場している。最後は京都の茶筒工房と開発したワイヤレススピーカーを取り上げる。パナソニック アプライアンス社の宇都宮工場に工房を造り、開化堂の職人が蓋の開閉具合を微調整するなど、感性価値を極めた新たな手法として注目される。
真鍮(しんちゅう)でできた茶筒の蓋を開けると音楽が鳴り始め、蓋を閉じると音楽はピタリとやむ。2019年11月8日、パナソニックは茶筒工房の開化堂と作ったワイヤレススピーカー「響筒(きょうづつ)」を100台限定で発売する。日本を代表する家電メーカーと京都の老舗工房という、品質基準もビジネス規模も大きく異なる両者が協業し、一般向けに商品を発売するのは珍しい。
ターゲットは文化や伝統、工芸やアート、音楽に理解があり、常に新しいことや新鮮な体験を求める人。例えば開化堂の茶筒に共感するように、素材にこだわり、ものを大切にすることが豊かな暮らしにとって大事なことだと共感するような人だという。モノが行き渡った現代の日本で「テクノロジードリブンから感性価値ドリブンへ」を掲げ、改革を進めてきたパナソニックのデザイン戦略が、新たな一歩を踏み出したといえる。
1875年創業の開化堂は、職人が130もの工程を経て作る茶筒で知られる。ブリキや銅、真鍮を使った茶筒は、見た目の美しさと、蓋の開閉具合の気持ちよさが特徴だ。茶筒に蓋を乗せると、蓋の重みでゆっくりと閉まる様子からは、確かに匠の技が感じられる。今注文しても購入できるのは来年以降という、歴史ある京都のものづくりを代表する逸品だ。
一方、パナソニックが掲げる感性価値とは「生活者の感性に働きかけ、感動や共感を得ることによって顕在化する価値」のこと。響筒を高機能・高音質なスピーカーとして位置付けるのではなく、蓋の開閉時の気持ちよさをどう表現し、訴求するかを考えた結果が、音との連動だった。
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