日本マイクロソフトは2019年6月21~23日までの3日間、川崎重工業や資生堂、ぴあなど約20社に呼びかけ、アート思考を養うワークショップ「Art Thinking Improbable Workshop for Flags!」を開催した。新規事業担当者など約30人が集まり、好評だったため、9月13~15日には2回目を行った。なぜ今、アート思考なのか。

アート思考のワークショップに参加したメンバー。大手企業からの新規事業の開発担当者などが多い。日本マイクロソフトの呼びかけに応じた
アート思考のワークショップに参加したメンバー。大手企業からの新規事業の開発担当者などが多い。日本マイクロソフトの呼びかけに応じた

 「ゼロベースで発想するには、どうすべきか」「ゼロから1を生み出したいが、何をしたらいいか分からない」。新しい発想法としてデザイン思考(デザイン・シンキング)が注目されているが、一方で最近よく聞く手法がある。それが「アート思考」(アート・シンキング)と呼ばれるものだ。

 デザイン思考がデザイナーやクリエイターの発想法をまねる手法ならば、アート思考はアーティストの発想をまねようとする手法といえる。デザイン思考も、今までにないやり方を使ってゼロベースで発想したり、ゼロから1を生み出したりすることが狙いであり、アート思考と目的は同じはず。それが、なぜアート思考が叫ばれるのか。

 そもそもデザインとアートには大きな違いがある。簡単に言えば、デザインはクライアントからの依頼でスタートするため、ゼロベースで発想するといってもクライアントの意向が反映されやすい。デザインはビジネスだからだ。しかしアートの場合、クライアントと関係なく自分の好きな作品を作れるため、デザインよりも自由に発想できるのでは、というイメージがある。ビジネスを前提に発想すれば視野が狭くなりがちだが、ビジネスするつもりがなければ発想は大きく広がるというわけだ。

 「AI(人工知能)時代の新しいイノベーションを開発するためには、テクノロジーとビジネスの両方を理解した人材育成が必要と考え、日本法人の独自施策として新たな人材育成プログラム“Flags!”を立ち上げた」と日本マイクロソフト業務執行役員クラウド&エンタープライズ本部長の浅野智氏は話す。そこでアート思考を推進する新規事業の戦略策定をコンサルティングするHEART CATCHと協力してワークショップを開催した。

 日本マイクロソフトによると、デザイン思考はユーザーの課題を解決するためには必要だが、他社と横並びのような発想しか生まれず、ソリューションの差異化が難しいという。他社と異なる全く新しい発想につなげるには、今までにない手法が不可欠と考え、他のITベンダーに先駆けてアート思考を打ち出した。今回のワークショップに参加したメンバーが自社に戻り、アート思考を学んだことで新しい事業開発のプロジェクトを推進しようとする際は、真っ先に日本マイクロソフトの技術を活用してもらいたい、というわけだ。

 「デザイン思考はユーザーが抱えている課題を解決するソリューションを生み出すことに向いているが、アート思考は“あり得ないこと”をあえて考えるようにしており、ワークショップの名称にも“Improbable”と入れている」とHEART CATCHの西村真里子社長は語る。講師には現代アーティストの長谷川愛氏、キュレーターの高橋裕行氏の他、特別ゲスト講師としてメディアアーティストの藤幡正樹氏が参加。各チームにテーマを与え、レクチャーとワークショップを交えて3日間で「アート作品」を作ることを目指した。ワークショップは「貢献・逸脱・破壊・漂流・対話・出展」という 6つの視点で進めたという。テーマは「少子高齢化・後継者不足」「都市集中」「ダイバーシティー・インクルージョン」「教育」「健康」だった。

ワークショップの風景。テーマに応じてリサーチを行い、その結果からさまざまな作品を作った。「あり得ないもの」を目標にしているだけに、見た目では分かりにくい作品が多い
ワークショップの風景。テーマに応じてリサーチを行い、その結果からさまざまな作品を作った。「あり得ないもの」を目標にしているだけに、見た目では分かりにくい作品が多い
「ダイバーシティー・インクルージョン」をテーマにしたチームが作っているシーン。作品は墓標をイメージしており、「罪深き言葉」と書いた横に差別的な言葉を並べている。こうした、相手を傷つける言葉を葬り、言葉で傷つく人が減るようにという思いがある
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