イタリアのミラノ工科大学教授のロベルト・ベルガンティ氏は「意味のイノベーション」と呼ぶ考え方で多くの企業から注目され、欧州委員会のイノベーション政策にも関与している。著書『突破するデザイン』(日経BP)も話題になり、日本の大手企業で講演する機会も多い。後編では、いよいよデザイン思考の本質に迫る。
イタリア ミラノ工科大学教授
「意味のイノベーション」は、デザイン思考と違うのですね。
ベルガンティ氏 私の考え方も「デザイン思考」の1つとして扱われることがあります。どう呼ぶかは重要ではないので、そういうときは私のアプローチを「デザイン思考2.0」と言ったりもしますが、まぎらわしいので、あまりよい言い方ではないと思います。
デザイン思考が目覚ましい効果を発揮する分野が、問題解決の他にもう1つあります。それが人材育成です。ワークショップでアイデアを出し合い、付箋を貼っていく作業は、参加していて楽しく、ワクワクします。デザイナーになれるわけではありませんが、ものの見方が変わるでしょう。デザイン思考は人を元気付け、楽しい体験をさせ、気持ちを変えてくれる。これが組織を変えていく力となるのかは分かりませんが、その可能性は引き続き見守っていきたいですね。
なぜデザイン思考はイノベーションにつながらないのでしょうか。
デザイン思考は、3つの原理を特徴としています。ユーザー理解から始めること、アイデアを大量に出すこと、そして素早くプロトタイプを作ることです。ユーザーから始めることは問題解決には有効です。しかし大きな方向を変えるイノベーションをめざす場合は、今ある現場にフォーカスし過ぎず、状況をリフレームし、意味を問い直す必要があります。
私の本で紹介している「意味のイノベーション」では、前提となる問題自体を問い直します。例えば、書きやすく手の汚れないペンを考えるのが問題解決だとすれば、「インクを入れたペンで文字を書くことに、どんな意味があるのか」を考えるのが意味のイノベーションです。
例えば、富士フイルムのインスタントカメラ「チェキ」の成功は、意味のイノベーションの好例でしょう。チェキでは問題解決につながりません。誰もインスタントカメラの機能を求めていないからです。今はSNSが全盛で、写真を撮ったら誰もが無料ですぐに共有できます。しかし、印画紙を買って、たった1枚のプリントに、手書きのメッセージを書いて相手に渡したら、それは写真ではなく、かけがえのない贈り物になります。特別な記憶の印です。だから大きな価値になるのです。
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