「デザイン思考は、多様なアイデアを生み出すには良い方法だと思うが、最終的にどれくらい実現可能なアイデアが残るのか、疑問に感じている」とNOSIGNER代表の太刀川英輔氏は言う。デザイン思考の限界を乗り越えるものとして、生物の進化のプロセスに学ぶ独自の「進化思考」を提唱する。
NOSIGNER代表/創業者・デザインストラテジスト
──なぜ生物の進化のプロセスが、発想や思考の役に立つのでしょうか。
太刀川英輔氏(以下、太刀川) 生物は40億年をかけて多様な形態を生み出し、環境に適応してきました。この進化のプロセスでさまざまな形態が生み出されることと、デザインや発明でさまざまな形態が生み出されることの類似性を基に、どうすればイノベーションが起こるのか、起こせるのかを追求するのが進化思考です。
生物の形態は周りとの関係によって決まります。周りの環境に最も適応したものが生き残る。そのために、例えばカエルはたくさんの卵を産み、少しずつ違った子供が生まれる。その中でどれが生き残るかは周囲との関係によって決まる。そしてそれを何世代にもわたって繰り返します。変異によってトライして、関係によって淘汰する。この「変異─関係─変異─関係……」を繰り返すことで、少しずつ形態が進化するのです。
こうしたプロセスは発明でもイノベーションでも起こることだと思いました。イノベーションについて語るときに、「○○の進化」といった言い回しをよく使います。それは生物の進化とイノベーションに強い類似性があるからでしょう。その類似性に焦点を当てたときに、文化進化的な概念としては、かねて、いろいろな人が提唱していますが、それを手法化しているケースはほとんどありません。進化のプロセスを再利用してイノベーションに使えるようにしようというのが進化思考なのです。
関係性を理解するというのは、ビジネスの現場では知識を身に付けるということに近いかもしれません。ある企業にしばらくいると、その業界の常識とかクライアントの傾向とかが分かってくる。そうして関係性ばかり学ぶと、変異できなくなる。スクリーニングで弾かれそうなイレギュラーなものは最初から生まないようになってしまう。一方で、新入社員などは関係性が分かっていないから、特異なアイデアは出るけれども通過しません。だから諦めてしまう。だったらその両方を身に付ければいい。おそらく、優れた発明家やデザイナーはその両方を1人で切り替えてできる人たちだと思います。
「関係─変異」が最終的にどのようにデザインに結び付くのかを概念的に示すことができます(下の図)。関係というのは暗闇の中にある領域を設定するようなものです。内外を分別し、スクリーニングや淘汰する役割を持つ。そうした関係の領域をいくつも描いて、その上に変異というダーツを投げていく。的を射たものもあれば見当はずれなものもある。そうしてたくさんの変異の中から淘汰されたものだけを集めると、あるべき姿が見えてきます。この状態が良いと分かったときに、「それを何と呼ぶか」と、言葉や概念にして示すのがコンセプト作りだと思います。そして、そのコンセプトを最小の形で最大の関係を発揮できるように設計するのがデザインの役割でしょう。
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