立命館大学でデザイン科学研究センター長を務める八重樫文氏は、ビジネスパーソンがデザイン思考を身に付けるためには2つのことを実行すべきだと言う。美に対する感覚を磨き、社会で生きる自分を再考すること。さらには日本型のデザイン思考を考える時期に来ていると言う。
立命館大学経営学部教授
──デザイン思考のブームについて、どうお考えですか。
八重樫 文氏(以下、八重樫) デザイン思考は、デザイナーの思考過程を抽象化してツールにし、ビジネスに利用したものです。だから、それぞれが捉える意味合いが少し違っているところがあるのではないでしょうか。さらに海外の文化背景、特に米国発のデザイン思考が色濃く入ってきたため、混乱が二重に起こり、日本のビジネスにそのまま適用することは難しいのかもしれません。
そこでポイントになるのは、まずは日本のデザイン文化と企業文化をきちんと踏まえたうえで、何をどう使っていくかを考えることでしょう。そのためには、日本のビジネスパーソンが、そもそもデザインとは何なのか、自分にとってどういう位置付けになるのかを、積極的かつ主体的に学び、身に付けることが必要です。
デザイン思考の良かった点は、ビジネスや企業で、デザインというものが単なる色や形ではなく、さまざまな点に使えそうなものだという雰囲気が醸成されたことです。では、次に来るものは何か。それは新しい方法論や具体化策ではなく、一歩戻って、デザインとは何か、デザインをしていくこととは何かをしっかり理解することだと考えています。
ビジネスパーソンにとって実行すべきことは2つあります。まず、美意識や美しさに対する感覚を学ぶことです。例えば、絵やスケッチを描くことでもいいでしょう。自分でモノを観察し、手を動かしてモノを描き、モノを感じるといった体験ができるからです。こうした感覚をビジネスパーソンは、もっと意識すべきです。別に絵画教室に行けということではありません。もちろん絵がうまい必要もありません。しかしビジネスの世界でキャリアを積んでいくなかで、恐らく学ぶべきスキルから切り落とされてきたであろう美術や美について、今後は目を向けるべきです。
これまでデザイナーはビジネスパーソンに対し、デザインはより普遍的な人間の能力だから、絵を描けるかどうかは特に重要ではないと言い過ぎてきました。そんなことはありません。なぜなら、デザイナーはみな絵を描くことから始めているからです。
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